37. 秘密の花園
文字数 1,891文字
ギルは目を細めて、それから先を話した。
「彼女の胸は
窓から
最後の部分を語る時だけは、ギルは声の調子を深めた。
「ですが、彼女はその青年を知っていました。ようく知っていました。心には存在しなかったけれど、ずっとその
こうして語り終えて見てみると、彼女はこの話にすっかり引き込まれた様子で、穏やかな瞳をしていた。
効果があればいいが・・・とギルはまた窓を見た。今の物語は、彼女一人だけに聞かせたわけではなかった。そうというより、むしろ・・・。
その娘の方へ視線を戻したギルは、微笑して、優しく言った。
「彼の故郷は、確かに遥か南の禁断の地です、お嬢さん。」
自分でもキザなやり方で、言い回しだとギルは思ったが、リューイのことを説明する前になぜかこの物語が浮かび、役者がそろっていることに気づいてしまったのである。それに、最後の
やがて、ギルはもう一度馬の首をなでてから、意味深な微笑を彼女に残して、小屋の出入り口へと爪先を向けた。
娘はその場に
一方、外へ向かって歩きながら、ギルは小声で「くそう・・・。」と
さっき語って聞かせたあの物語は、実はダルアバス王国の王太子ディオマルクから、
ダルアバス王室とアルバドル皇室とは旧知の仲である。優秀な技術と知恵を備え、資源に富み、裕福だが武勇に優れた人材には恵まれなかったダルアバス王国は、逆にそのような軍人には恵まれながらも、技術も財力も
両国はそうして、この乱世が続く時代にあっても、長く友好関係を保ってきた。そして互いの君主は、もともと他国の軍人と王子という立場でありながら親友となり、やがて共に王となって、その息子であるギルベルトとディオマルクは、
ディオマルクは、
それで、あの色男にこの物語を聞かされた時は、男女立場が逆で、それを寝室に招き入れた
そんなことを思いながら外へ出たギルは、
返事はなく、姿も現さなかった・・・が、気配は感じられた。
「まずは気付いてもらうことじゃないか。」
一向に反応はなかったが、それを待つつもりもなかった。
ギルはそのまま真っ直ぐに競技場へ下りて行った。
彼が去ったあと、少しして、娘は眩い陽光が射すおもてへ出た。
するとそこで、彼女は誰かに呼び止められた。
どこからともなく現れた
そして、たった一言、照れくさそうにしながら、やっと伝えた。
悠長に足を進めていたギルは、ある時ふと、気持ち良く晴れ渡った空を
奴が吟遊詩人なら、俺は即興詩人ってところか。