43. 余計なお世話

文字数 1,724文字

 やがて、(げん)(おと)がひとり(かな)でた。そして静寂(せいじゃく)が覆う・・・と突然、拍手喝采(かっさい)がわき起こった。

 シャナイアは笑顔でそれらに応え、愛嬌(あいきょう)を振り撒きながらエミリオと共に戻った。

「どう? ()れ直したでしょ。」
「お前に惚れた覚えはない。」レッドはぶっきらぼうに返した。「そうだ、お前、なに余計なこと言ってんだ。勝手なことべらべら喋ってないだろうな。」
「ああ、あれね。」
「やっぱり。」
「誰から聞いたの?」
「ユアン。」
「あら、男ね。女の子にはモテなかったの?」
「うるせえ。なんでそんな話してんだ。」
「あなただけモテてなかったからよ。それに、もう少し見られることに慣れた方がいいんじゃない? 本当はモテる口なんだから、もっと愛想よくしてなさい。」
「余計なお世話だ。」
「だって、それに・・・。」
 シャナイアの声が急に小さくなった。
「あ・・・?」
(くや)しかったんだもの。」
「なんだって?」
「なんでもありません。」

 シャナイアは思い出していた。レトラビアでの任務で足を負傷した時、レッドは見捨てずに、ずっと負ぶって歩いてくれたのを。激流の川を渡る時には、彼はほかの隊員の三倍その川を横切って、全員を無事に対岸へ渡した。レドリー・カーフェイという男は、体を張って可能な限りほかを最大限に生かそうとする、そんな男であることを、あの時の誰もが理解した。※
 それなのに、よく知りもせずに冷たくされそうなどという評判は、その時レッドに恋にも似た感情を抱いてしまったシャナイアには、我慢ならなかったのである。

 そのシャナイアはもう、レッドを半分無視して違うところを見ていた。
「あら、アイリーンだわ。」
 シャナイアは、会場を外れて潅木の方へ向かうその姿を目にとめて言った。
「カイルったら、とうとう皆にまで心配かけちゃって。」
「ああ、あの子が・・・。」
 ギルは、そちらに目をやって(つぶや)いた。その娘とは、今日の昼間に話をした覚えがあった。
「カイルより一つ年上なのよ、彼女。年頃が同じだから、余計気になっちゃうのね。」

 仲間たちはどうなることかとずっと見ていたが、やがてその暗闇の中から出てきたのが彼女一人だけであると、そろって落胆(らくたん)のため息をついた。

 彼女は肩を落として、何度も振り返りながら友人たちのもとへと帰って行く。

「ダメだったのね。カイルったら、いつまでいじけてるつもりかしら。」
「俺っ ―― 」
「もう一度 ―― 」
 リューイが意気込んで立ち上がり、同時にレッドも腰を上げた。
 二人は顔を見合わせる。
「一緒に行くか?」

 炎と喧騒(けんそう)から離れるにつれて、風の(うな)りは鮮明になり、冷気が肌身に沁みてくる。それらから、夜ももう遅いことにレッドは気付いた。夜更(よふ)けが実感できるようになると徐々に酔いが冷めてきて、リューイも一つ身震いをした。

 カイルは両手で抱いている自分の膝に頭を乗せて、小さくなっていた。ずいぶん長いあいだ、この少年は一人そうしていたのだ。やはり気付いているくせに、間近まで近づいても見向きさえしない。

「こらガキ、いい加減にしろよ。」
 レッドが言った。
「いつまでそうやってえ、うじうじしてるつもりだ。」とリューイ。
「ほっといてよ。」
 カイルはつっけんどんに言い放った。今はかまってもらいたい気分ではなかった。

「悪い・・・。」
 しばらくしてからそう先に声を出したのは、リューイである。
 それにレッドも続いた。
「悪かった。けどなカイル、ほっとけないんだよ。お前はもう・・・弟みたいなもんだから・・・。」

 すると、すぐにではなかったが、カイルは悄然(しょうぜん)とした顔をのろのろと向けた。

「ごめん、みんなに心配かけて。でも僕・・・。」

「一人で悩むな。」レッドは、カイルの左隣に腰を下ろした。「今度は何て言われたんだ。」

 そしてリューイも、もう反対側に座った。





※ 『アルタクティスzero』 ― 外伝3「レトラビアの傭兵」


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