1. 草原の村 ― リサ
文字数 2,196文字
視界の限り鮮やかな青空が広がり、みずみずしい緑の
そして南には、すぐそこに大きな沼を持つシオンという森が
イオの村を出発して旅を続けている一行は、そんな自然に囲まれている土地に来ていた。ここは、リサという村だ。
リサの村では、二日後に迫った祭りに備えて、着々とその準備が進められていた。祭りといってもイオの村のような大規模なものではなく、本来は村の人々だけで祝うつつましやかなものである。
この土地は、かつては不毛の低湿地帯に過ぎなかったが、彼らの先祖は長期間の土地改良を行い、新しい土地に育てるうちに様々な作物を生き残れるようにした。祭りは村の誕生とその農業の成功を祝い、平和の永続を願って催される。
なだらかな草原の丘の上に佇む大木の下で、目に少年のような
ある一頭の馬に魅了されたのである。
エミリオは横笛を吹きながらギルの背中を見ると、目だけで微笑して、そのまま演奏を続けた。すぐ周りで夢うつつの可愛い聴衆たちが、今にも閉じてしまいそうな
だがそのうち、一人が少しずつ、体を草の布団に押し付け始めた。連鎖反応で、ほかの子供たちも次々と寝そべりだす。
エミリオが笛を吹き止めた時には、楽の音に代わって小さな寝息が流れていた。
目を細くしたエミリオは、視線をゆっくりと西の
その瞳が、次第に悲しい
かの土地には深く死が染み込んでいる。大地が、
西方から吹きつけてくるそよ風はどこか冷たく、肌に触れられると切なさで胸が苦しくなった・・・。
隣で眠りに落ちたミーアが、腕にもたれかかってきたかと思うと、寝返りをうってずり落ちた。片腕でそっと受け止めたエミリオは、そのまま赤ん坊を抱くように自分の膝に座らせた。
「よくおやすみ。」
エミリオはそっと囁いて、ミーアの
ギルを惹きつけたのは、黒光りする
「こんにちは。」
ギルは満面の笑みで、飛びつくように
「旅のお人か、こんにちは。」
農夫もつられて笑顔を浮かべた。日焼けした彫りの深い顔に、笑うと寄る
「聞いたよ。村長の病気を治してくれたんだって?」
「連れがな。おかげで、立派な空き屋を提供してもらえたんだが・・・。」
柵にかけていた腕を腰に当てて、ギルはため息をついた。
一晩の宿を借りるつもりが、もう三日もこの村に滞在しているのである。
「引き止められたんだろう。無理もない。この村には医者がいないからな。おっと・・・。」
馬がまた乱暴に首をふりたてた。
ギルは、そいつに触れたくてうずうずしていた。
「そっちへ行ってもいいかな。」
「ああ。それじゃあ、よければ手伝ってくれないか。」
ギルは喜んでうなずき、切れ目が見つかるまで柵に沿って
馬は嫌悪感を剥き出しにして、うっとおしそうに
「それがこのとおりの暴れ馬で、畑仕事もしなけりゃあ馬車にもならねえ。そこで業者へ売りに行こうかと思うんだが。」
「なるほど。この馬なら立派な軍馬になりそうだ。」
ギルの頭には、真っ先に、
「これから?」
「いや、売りに行くのは三日後だ。祭りの日はここにいないといけないからな。」
「ああそうか。じゃあ、何をすれば・・・。」
「気分転換に、こいつの居場所をそろそろ変えてやろうと思ってな。向こうまで連れていくのに手を貸してもらいたいんだが。」
「それはどういうことだい。まさか、この馬はこの牧場から出たことがないとでも。いや、それにしては見事な体格をしている。どう見ても、運動不足の体ではないな。」
「こいつは、最近この村に来たんだよ。騎手が亡くなってな。それを知ってか知らずか、もらわれてきた時は、おとなしそうにしていたんだがな。」
これを聞くとギルは