第35話

文字数 936文字

 「バカだなあ、ほんと大バカだ」彼は心底、自身をそう想い感じた。何の約束もした訳でもなく、なんの保証もなく、なんの返って来る言葉もない……。なのに、何故、2年も待ち続けているのか、待ち続けていられるのか。相手が自分をどう想い、日日どう暮らしているのかもまったくわからない。彼女は自分なんてなんとも想っていない可能性も、ただ、待ち惚けるだけなのかもしれないのに、ずっと──。

 何故だ。何故、自分はこんなに……。

 ただの想い込み、ただの勘違い、ただの夢をみているだけ、その可能性も大きいように実感しているのに──。

 「はじまりは何時も愛、それが気紛れでも」若い頃、聴いた歌のフレーズが甦る。

 果たして愛などあったのか

 疑い出したら、キリがない。

 よくもってるよなあ。知り合って4年……手も握らずに──バッカじゃねえの、ホント

 あー、そういや、今日、役場で凄い美人さんの職員さんと知り合ったなあ、彼女に乗り換えようかなあ(車でもないのに、本当に失礼な表現だけど)

 そういや、その美人さんも、あいつも、なんでかしらねえけど、母の旧姓と同じだったなあ、なんでだろ。

 なんで、あいつに拘ってんだ、囚われてるんだ。非合理なのに、不合理なのに

 「不合理ゆえに、我信ず」とか言ってた、古代羅馬だかの宗教者いたけど、自分が信じてる、信じていられる、ことがまったく、合理性なんてあり得ない。

 多分、自分で自分を洗脳したんだろ。概念なんて、如何でもいい。その概念があるからそれを拠り所にして、運命という言葉で自身を言いくるめる。言いくるめている人が余りにも多くて、だから、そんな運命という言葉に新たな概念を齎すのは自分自身だって、ツインなんとかじゃ、ねえと相手を愛せない、とか、いうことはおかしすぎるだろ。

 運命だから、愛するんじゃねえ。愛すると決めた、或いは単純に愛してるから、それは運命だったという証になるというかなれるんで、つまり、自分が運命を創っていて、そういう強い意志や行動によって、示される、証されるのが、生きてること、つまり、人生なんだ。なんてこと、つらつら書いてきたけど、結局、自分を納得させたかっただけなんだ。或る大バカの独白はここで終わっている。彼の幸福を願う、ただ、単純に。
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