第27話  対外的処世プログラム、人格。

文字数 3,836文字

本稿の目的は現実認識の為の情報提供にある。
何についてか?。人格と本質についてである。

自己において内観ができるようになるにはいろいろと準備がいる。
だが、赤の他人においてならば手間はかからない。
むしろ遥かにわかりやすくなる。

あの記録(フラグメンツ)の中に、G が催眠術を使って人格と本質の分離実験を
行なった時の描写がある。これに勝る記録はないので少し改稿してあげてみる。


対象者は二人。


❶と②。


その❶:
若くはない。社会的にかなり重要なポストを占めている人物。
皆の中にあっては彼は活発でよくしゃべる人。
内容的には、ほとんど自分のことか自分の家族に関して。
他には、自身の理念や信仰について、あるいは社会/世界情勢に関しての彼の意見。
世間を賑わせる〈スキャンダル〉に関してうんざりさせられているそうだ…。

その②:
若者だ。大半のメンバーの印象としては少し軽薄な人間と思われている。
何故なら、彼の態度にはおふざけが多かったから。
またその逆に、細かなことにこだわった独自の理論展開を延々と続ける傾向があった。
その切り口はユニークであるが、理屈の整理があまりできていない印象が強かった。
小さなことに拘り、膨らませ気味で、余計ややこしくしてしまう感があった。
大半は彼の言っていることについて行けずで、彼を理解することはむづかしかった。
簡単に言えば、あまり賢い人だとは思われておらず、裏では皆から軽んじられている…。

舞台:
定例的な会合で、大きな客間にてみんな座ってよもやま話をしている。
対象者二人も熱心に何かを喋っている。


G が無造作に自然なマナーで一人に近寄り、肩に手をおいて耳元で何か語りかけていた。
そして少し移動して今度はもう一人に同じくする…。(*)
やがて G は自席に戻り、皆にだけ囁くように伝える。

『さあ、観察してみなさい』と…。


❶年長者は話の途中で急に黙り込み、前方をまっすぐに見ながら
 椅子の中に徐々に沈み込んでいくようになっていった。

(G の指図で我々は彼を見ないようにして話を続ける。)



②若い方の男は話を聞いて、それに関しての彼自身の見解を披露し始めた…。

(その時、我々皆は驚くことになった。お互いに目を見合わせた。)

彼の声がいつもと違っていたからである。

 彼はある自己観察に関してを、はっきりと、簡素かつ明瞭に、
 余分な言葉や無節制でおどけた調子を一切交えずに語っていたのだ。
 それから彼は黙り込み、煙草を吸いながら何かを考えている様子になった。




年長者の方は、まるで縮んだボールにでもなったかのように身動きもせずに座っている。

(『彼に今何を考えているのか聞いてみなさい』とGは静かに言った。)


「私?」と彼は、まるで今、目が覚めたかのようにして頭を上げた。

「何も…」彼はすまなさそうに、あやまるように、あるいは驚かされたのかのように、
 弱々しく微笑んでいた。

(「あのね、ちょうど今あなたは戦争について話をしていたですよ。

 つまり日本と韓国の間に和合がくると、何が起こるだろうということについてね。
 あなたは今も同じ意見ですか?」と一人が言った。)


「そんなこと知りませんよ」彼は確信のなさそうな声で言った。
「そんなことを私本当に言いましたか~?」

(ええ、もちろん。あなたは、みんながこれについて考える義務があり、
 誰も考えなくて良い権利はないし、かっての侵攻を忘れる権利もない、
 誰もがはっきりした意見、つまりはイエスかノーか、断交に賛成か反対かを
 はっきり述べるべきだだと今言ったばかりだったんですよー!。)


彼は尋ねているいる人が何を言っているのわからないといった様子で聞いていた。

「本当ですか?」、「なんて奇妙なことなんだ。私はそんなこと何一つ覚えちゃいませんよ」

(「なら、今はどうです? このことに関心をお持ちでしょうか?」)


「いいえ、全くないですね。」

(「あなたは今起こっていることの成り行きや中国ロシア、ひいては極東アジアにおける
  我が国の独立性に関しての影響について、考えていないのですか?」)


彼は残念そうに頭を振って「私はあなたが何を話しているのか分からんです…」と言った。

「そんなことには全然興味はないし、それに関しては何も知らないんです…。」

(「それなら、あなたは以前、家族の方が我々の会合の意義をもっと理解してくれれば、
  あなたは此処へくるのがもっと楽になると言いましたよね!?」


またはっきりしない言い方で

「ええ、多分そうでしょうね。」と答えた。

「でもどうしてそんなことを考えなくちゃいけないんです?…」

(「もっともです。でもあなたは、あなたと家族との間に広がりつつある、
  あなたの言葉によれば[深い裂け目]を恐れていると言いましたよね?。」

  返事はない。

(「今はそのことについてはどう思ってられますか?」)


「そんなことは、これっぽっちも考えていませんよ。」

(「もし今、何が欲しいかと聞かれたらなんと答えますか?」)


彼は驚いたような顔をして

「何も欲しくはありません。」

(「何でもいいんです。何か考えてみてください。」)


彼の傍にテーブルの上に飲みかけの紅茶があった。彼は考え込むようにして
それを長い間見つめていた。皮はまわりを二度見渡してから、またお茶のカップを見、
それから我々が互いに目を見合わせるほど真剣な抑揚で言った。

「ラズベリージャムが少しばかり欲しい...。」



「なぜあたなたちは彼に質問しているのです?!」と、

(ほどんど聞き取れんないほどの声が部屋の隅から聞こえてきた。
 これが第二の実験対象だった。)


「彼が眠っているのが分からないのですか?」

(「あなた自身もですか?」)


「いいえ、私はその反対に目が覚めました。」

(「あなたが目を覚ましたのに、なぜ彼は眠ってしまったのですか?」)

②「わかりません。」

*これで実験は終わった。彼ら二人とも、次の日には何も覚えていなかった…。



G による説明は以下のようなものだった…。


❶の通常の生活における[会話/驚き/動揺]など、それらの原因となるものは、
人格の中で形成されるものでしかない。

❶は、世間体を気遣って「身につけた/パクった」誰それの意見や思想、正しいとして
躾けられた[倫理/道徳観]しか持ってはいない。

それで、彼の人格が眠ってしまえば実際何一つ主体的なるものは何も残ってはいなかったのだ。

もう一人の②は、人格としては非常に話し好きの性癖がある。だがその背後にには人格と
同じだけ、否それよりも、物事に関して理解をしているが本質がいる。

だからあの時、人格が眠り込んだと同時に本質が入れ替わって、主導権を握ったのだ。
対外的な責任者の部署に着けた。

真実を言えば、その部署に関しては、本来は本質の方がずっと正当な権利を持っているのだが…。

②がいつもの習慣に反してほとんど話さなかったことに注意しなければならない。

しかも、②はあそこに居た君たち全員と、そこで起こっていたことの全てを観察できており、
何一つ見逃してはいなかった。

*そこである人物がGに次の質問を投げかけた。

「そうであったとしても、もし②がそれを覚えていない、
 もう記憶を呼びおこせないのだとしたら、彼の観察は何の役に立つのですか?」

G:本質が覚えている。人格は忘れてしまう。だが、これは必要なことなのだ。
 というのも、そうでないと人格は何もかもを歪めて、それらを全部自分のものだと
 思い込むに違いないからだ。』


〈終了〉


以上です。かなり内容にかってな手を入れてしまってます。
正確なものが気になりますれば、原書に当たってください。
日本語訳なれば P.395の最後の方です。





蛇足:

さて、最後のパート
『人格は何もかもを歪めて、それらを全部自分のものだと思い込む』
に関しては言葉を残しておきたい。

人格の、自動性というか、癖というか、悪い/恥知らずな/卑劣な傾向性と言うか…w。
悪いけど、これ100%みんな持ってるからネ。

盗みやがるねん。でっ、あたかも自分が考えたかのようにしてしまいよるねん。
ことの筋道みんな忘れてしまいよるねん。自分から先ず率先してその事実を忘れて、
この大嘘に見事に嵌ってしまいよるねん。

如何にエゴのエゴたるかがよく分かりますよね。盗人根性丸出し。恥知らず。
ここでも誠実であることがどんだけ大事か大切なのかが分かる。

まあ、人格はあっち行ったりこっち行ったり情報処理の対象が膨大になるので、
相対性の海に溺れる。そんでもってみな簡単に忘れてしまいよる。
些事に巻き込まれて重要なことさえも…。

だが、本質は、肝心なこと、心の琴線に触れたことは決して忘れはしない

それが覚えていることこそが宝なのだ。人格ではそれは retrieval できません。

天に宝を積むは、ここに関係しての言葉なのかも知れない。



終わり
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み