第11話

文字数 1,521文字

 塔夏は自分の部屋に戻った。
「あなた、何か関係あるの?」
ドアを閉めたとたん、女の声に驚いた。芝西をたずねてきた女性がいることを、すっかり忘れていたのだ。
「無実を証明しないといけないんでしょ」
さっきの高橋とのやりとりを聞いていたようだ。さらに女性は続けた。
「でも、なんかよくわからないんだけど、芝西さんが爆破装置を持っているところを見たの?本当に?」
塔夏は首を横に振った。彼女に自分の“仕事”を語るつもりはなかった。
「向いの部屋だってことだけで、疑われているんだ」
彼女は黙った。あきらかに彼を怪しんでいる。

「何か知らない?彼のことで。その…よく知ってるんだろ?」
 彼女は困った顔をした。
「よくって…、それほど知らない。じゃあもう帰ります」
「英文科?」
塔夏は彼女の前に立った。
「そう」
「友人は?」
「よく知らない」
「どうして知り合ったんだ?」
「隣の奥さんから聞いて」
「彼、音楽、ダウンロードしてたね」
彼女は首をかしげた。
「パソコン、前から壊れてた?」
「知らない」

彼はしだいに、いらついてきた。
「寝室にある」
「そうなんだ」
「知らないふり?」
「え?」
「寝室にはくわしいだろう?」
彼女は少しの間、意味を考えていた。その瞬間、塔夏はしまったと思った。自分の考えが間違っていたと感じたからだ。彼女は芝西とはそういう関係ではない、やはりただ英語を習いに来ていただけなのだ。

「え?なに?私と芝西さんの関係を疑ってるの?やだ」
彼女は軽くふざけたように笑った。家族には秘密と言ったから、そうなのかと思ってしまったのだ。
「あなたこそ、嘘ついてる。知ってたんでしょ?芝西さんが犯人だって」
その言い方に、彼女を不愉快にしてしまったことを感じた。

「ああ、知ってた。事件のあとに、彼の脳みそから知った」
嘘だと言われ、本当のことを言ったが、彼女の笑顔が消えた。彼の言ったことが信じられないどころか、ばかにされたと思ったようだった。

「私のこと、言わないでくれてありがとう」
表情とは裏腹なことを言い、彼女はそのままドアに向った。

 塔夏はもどかしく、腹立たしい思いで、とっさに彼女の首もとをおさえた。
「なにするの!」
彼女の頭を調べたが、コネクターはなかった。
「残念だな。あんたに電極があれば、おれには全部わかるのに。あんたの家、仕事、家族、あんたの考えてること、あんたがなんでここへ来るのが秘密なのかも」
彼女はひきつった顔で塔夏を見た。彼をおかしい人だと思ったのだろう。彼女はあわてて彼の手をはねのけると、外へ飛び出して行った。

 彼は疲れたように座った。言わなければよかったと思った。じっと目の前の作りかけの、ミニチュアハウスを眺める。足下の床には、装飾を彫りかけの居間のテーブルの足が転がったままだ。それを拾うと、またテーブルに置いた。
 かりんはこのミニチュアを見て、マニアックなオタク趣味だと笑った。確かにある意味当たっている。

 これは昔、実際に両親と住んでいた家を再現しようと、曖昧な記憶を頼りに作っているミニチュアだった。 いい加減にやめるべきだと思うが、そうはできない自身の問題がわかっていた。何をしても裏目にでてしまう。
 塔夏は人のことを探ることはできても、人と知り合い関わるには、不器用すぎた。

 外がにぎやかになってきた。警察がやってきたようだった。本格的に芝西の部屋を調べ始めるのだろう。
 彼も今はこうして座って、ミニチュアハウスを眺めているどころではない。芝西について調べなくては、彼自身がやばい状況に陥りそうだった。 塔夏は引っかかたものを振り払うように、立ち上がった。
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