第16話
文字数 1,596文字
彼はリビングに戻ってまた座ると、目の前のミニチュアハウスを眺めた。作りかけでそのままだったが、眺めない日はない。彼は自分でもこれを完成させることは無理だろうと思いながらも、少しずつ作業を進めては、作り直すことを繰り返していた。
そのテーブルの端に置かれた写真を、手に取り眺めた。少女がコネクターを持っていれば、簡単に調べられるのだが。
いつもの彼の仕事とは全く違う、探偵をやることになった自分がおかしくて、少しにやりとした。とりあえずやるだろうが、まずはコムテックのことを調べるのが先だった。こちらは彼の本業が活かせるだろう。
まずはネットにつなぎ、コムテックを検索した。すぐ出てくる大きい企業で、組織構成を見ると、インターネット関連はその一部だ。だが、最近この部門の成長が著しかった分、情報漏洩事件で、ダメージが大きかった。さらに、自殺したという社員のことを調べてみた。
検索をかけると、簡単にその個人情報もわかる。伊勢山譲、24歳。別のサイトでは写真まではってある。 ラフではあるが、ブランドロゴの入ったカットソーを着て、自信たっぷりに微笑む写真だ。
さらに別の匿名掲示板には、その事件について様々なことが書かれていた。信憑性はないだろうが、“自分より弱い者をいじめていた”とか“なんでも都合の悪いことは人のせいにする”“派遣社員がいじめられてやめた”など、まるで本人を知っている者が書いたようなものもある。
塔夏はとりあえず、このコムテックのアドレスに入り込んでみることにした。無作為にアドレスの末端の、つまりここの社員でコネクトしている者をハッキングをするのだ。
それは数日前に守熊省吾という、インターネットショッピングサイト『ユニヴァーサル』の社長をターゲットに、ダイレクトにハッキングしたのとは違い、難しいものだった。だが、たいていはそういう簡単な仕事はない。
このように、間接的にハッキングしていく手法が大半で、一度でわかるものはほとんどない。前もって対象者の情報を調べればまだいいが、持っていない場合、数日間、長いときは数週間も、わずかな情報を拾い集めていく根気のいる作業である。
コネクターで頭と回線をつなぐと、そこに意識を集中しなくても、すぐに雑音、映像が混線したようにざわざわと、彼の周りに溢れかえる。
昔はかなり集中し、その“感覚”を維持するための労力が必要だったが、回数を重ねるほど能力が磨かれて、本人が意識しないところで、コツのようなものが身についてきていた。
様々なノイズが聞こえ、バラバラにいろいろな映像が見える。その中で、事件につながりそうなものが見えれば、そこにターゲットを絞っていくのだ。
彼はずっと回線につないだまま、探しまわった。様々な人々の、様々な生活の断片を共有していくような感じは、奇妙なものである。
塔夏はこの仕事をしていると、いつも自分がまるで生きてないような、人々とは別の世界にいる、ただの傍観者のような気分になる。それは、寂しいとかそういう感じではない。ただ、心が石になったような、眺めているだけの、動かない自分の内面に寒気を覚えるのだ。
ノックがした。気がついて接続をはずしたが、部屋はやや薄暗くなりかけていた。ドアを開けると、このアパートの住人の、時々見かける高齢の小さな女性が、回覧版ですよと差し出した。
そのとき女性は、ちらりと彼とドアの隙間から部屋をのぞいた。彼と目が合うと少しにこりとしたが、働きもせず、学生でもなさそうなこの男は、いったい何をしてるのかと思っているのはありありだった。
結局、肝心なものは何も見つけることはできなかった。やはりターゲットを絞り調べる必要があった。まずは来栖英里に会い、その新屋敷歩美の夫のことを知るべきだろう。だが、その前にやることがあるのを思い出した。
そのテーブルの端に置かれた写真を、手に取り眺めた。少女がコネクターを持っていれば、簡単に調べられるのだが。
いつもの彼の仕事とは全く違う、探偵をやることになった自分がおかしくて、少しにやりとした。とりあえずやるだろうが、まずはコムテックのことを調べるのが先だった。こちらは彼の本業が活かせるだろう。
まずはネットにつなぎ、コムテックを検索した。すぐ出てくる大きい企業で、組織構成を見ると、インターネット関連はその一部だ。だが、最近この部門の成長が著しかった分、情報漏洩事件で、ダメージが大きかった。さらに、自殺したという社員のことを調べてみた。
検索をかけると、簡単にその個人情報もわかる。伊勢山譲、24歳。別のサイトでは写真まではってある。 ラフではあるが、ブランドロゴの入ったカットソーを着て、自信たっぷりに微笑む写真だ。
さらに別の匿名掲示板には、その事件について様々なことが書かれていた。信憑性はないだろうが、“自分より弱い者をいじめていた”とか“なんでも都合の悪いことは人のせいにする”“派遣社員がいじめられてやめた”など、まるで本人を知っている者が書いたようなものもある。
塔夏はとりあえず、このコムテックのアドレスに入り込んでみることにした。無作為にアドレスの末端の、つまりここの社員でコネクトしている者をハッキングをするのだ。
それは数日前に守熊省吾という、インターネットショッピングサイト『ユニヴァーサル』の社長をターゲットに、ダイレクトにハッキングしたのとは違い、難しいものだった。だが、たいていはそういう簡単な仕事はない。
このように、間接的にハッキングしていく手法が大半で、一度でわかるものはほとんどない。前もって対象者の情報を調べればまだいいが、持っていない場合、数日間、長いときは数週間も、わずかな情報を拾い集めていく根気のいる作業である。
コネクターで頭と回線をつなぐと、そこに意識を集中しなくても、すぐに雑音、映像が混線したようにざわざわと、彼の周りに溢れかえる。
昔はかなり集中し、その“感覚”を維持するための労力が必要だったが、回数を重ねるほど能力が磨かれて、本人が意識しないところで、コツのようなものが身についてきていた。
様々なノイズが聞こえ、バラバラにいろいろな映像が見える。その中で、事件につながりそうなものが見えれば、そこにターゲットを絞っていくのだ。
彼はずっと回線につないだまま、探しまわった。様々な人々の、様々な生活の断片を共有していくような感じは、奇妙なものである。
塔夏はこの仕事をしていると、いつも自分がまるで生きてないような、人々とは別の世界にいる、ただの傍観者のような気分になる。それは、寂しいとかそういう感じではない。ただ、心が石になったような、眺めているだけの、動かない自分の内面に寒気を覚えるのだ。
ノックがした。気がついて接続をはずしたが、部屋はやや薄暗くなりかけていた。ドアを開けると、このアパートの住人の、時々見かける高齢の小さな女性が、回覧版ですよと差し出した。
そのとき女性は、ちらりと彼とドアの隙間から部屋をのぞいた。彼と目が合うと少しにこりとしたが、働きもせず、学生でもなさそうなこの男は、いったい何をしてるのかと思っているのはありありだった。
結局、肝心なものは何も見つけることはできなかった。やはりターゲットを絞り調べる必要があった。まずは来栖英里に会い、その新屋敷歩美の夫のことを知るべきだろう。だが、その前にやることがあるのを思い出した。