第一話 黒曜石(三/四)
文字数 3,995文字
「そちらが気になりますか?」
花梨の視線に気づくと、槐は何気なくそれを手に取った。照り返る光で見えなかったその姿が、はっきりとあらわになる。
それは黒い石だった。
つややかな黒。波打つような表面は、なめらかなようで輪郭は鋭い。形は三角形――のような、少し変わった形をしている。
「黒曜石。マグマが急速に冷え固まってできる火山岩の一種です。天然のガラスとも言われますね。英語名はオブシディアン。模様や特殊な輝きを持つものもありますが、基本的にはこのように黒い石です」
槐はそう言うと、花梨の目の前へ、それを差し出した。近くで見ると、それはよりいっそう黒く見える。それでいて、光を受けて輝く姿は夜空に星がまたたいているようにも思えた。
「これ、自然のものではないですよね」
特徴的な形をあらためて目にして、花梨はそう言った。槐はうなずく。
「黒曜石はガラス質のため、割ることで鋭利な刃のように加工できます。そのため、遠い昔から人々に日常の道具として利用されてきました。これは、そう、鏃 ですね」
「鏃……武器、ですか」
「あるいは狩猟の道具でもあったでしょう」
槐はそう答えると、しばし思案するように沈黙した。黒曜石の鏃をじっと見つめ、黙ったまま動かない。
不思議に思っていると、槐はふいに、手にしていた鏃を花梨へと差し出した。
「どうぞ、お持ちください。もしかしたら、これがあなたのお力になれるかもしれません」
驚きつつも、花梨は思わずそれに手を伸ばす。素直に受け取るべきか、それとも――まごついている花梨を見て、槐は安心させるようにほほ笑んだ。
「言ったでしょう? 声を聞くのだと。その石には特別な力がある。それは守る力です。お守り代わりに持っていただければ、少なくとも、あなたの身を守ることはできるでしょう」
確かに、よくないものをつれている、と槐は言った。そのこと自体は花梨も自覚し、不安に思ってはいたことだ。
ここにある石には特別な力があるらしい。少なくとも、槐はそう言っている。そして、声が聞こえるのだ、と。ならば、彼がこれを差し出すからには何かしらの意味があるのだろう。
戸惑いつつも、花梨はたずねる。
「でも、その――お代金は……?」
「いりませんよ」
槐は何でもないことのように、そう答えた。しかし、そういうわけにもいかない――とは思うのだが、花梨には黒曜石の鏃がどれほどの価値を持つものなのか見当もつかない。
どうするべきか花梨が悩んでいるうちに、槐は念押しするように口を開く。
「あなたの力になるのなら、黒曜石も本望だと思います。ただし、ひとつだけお約束を」
「何でしょう」
「もし、あなたがそれを手放そうとお考えになられるようなら、捨てたりはせず、ここに返していただけませんか。それだけです」
そんなことか。花梨は拍子抜けする。
しかし、そうして条件を出すからには、この鏃はよほど大切なものなのだろう。やはり、ここにある石たちは売りものではなく、彼にとって特別なものなのかもしれない。
考えた末に、花梨はそれを受け取ることにした。あくまでも、不安をやわらげるためのお守りとして。
花梨は彼らが悪い人だとは思えなかったが、それでも何もかもを信じているわけではない。特別な力を持った石、と言われても、それを言葉どおりに受け取ったわけではなかった。
ただ、もしかしたら槐も、あくまでも気休めとしてこれを渡すのかもしれない。お守りと信じさせて、花梨を安心させるために。こういうことは結局、気の持ちようだろうから。
そうして何も起こらなければ、落ち着いてから、またここにこれを返しに来ればいい。もう一度訪れてもいいと思えるほどには、花梨は彼らに好感を抱いていた。
「わかりました。お約束します。不安を感じていたのは確かですし、お守りとしてお借りできるのなら心強い気がします」
花梨がそう言うと、槐はうれしそうにうなずいた。成り行きを見守っていた桜も、心なしかほっとしているようだ。
気づけばだいぶ日も落ちている。思いがけず、ずいぶんと長居をしてしまった。そろそろ帰らなくてはならない。
花梨はあらためてお礼を言い、いとまを告げた。槐の見送りを背に、桜とともに土間まで戻ってくる。
表の戸から外の通りに出るとき、桜がふいに、あの、と声を上げた。それに応じて向き合うと、桜は意を決したようにその先を続ける。
「よかったら、また来てくださいね。用がなくても。うちはあんまりおしゃべりな人はいなくて。話し相手になってもらえるとうれしいです」
初めて会ったときにも、人好きのする青年だ、と思ったものだが、彼の印象は今もそれほど変わっていない。外見の見た目は花梨とそれほど年が離れているようにも思えないが、それでも、弟がいたらこんな感じだろうか、と思った。
花梨は桜の言葉に快くうなずく。別れを告げ、戸が閉められてしまうと、その建物は周囲に溶け込んでしまった。とてもお店を営んでいるようには見えないが、店主があの様子では、それでも問題はないのだろう。
そういえば、店の名前も聞いていない。
花梨はこの場所を忘れないようにと、周りの様子を確認してから歩き始めた。ここに来たときは辺りに人の気配もないと思っていたが、今になって人影がちらほら見える。大通りからも、ほど近い場所だ。人通りのない方が異常だったのだろう。
追い立てられるような感覚は、もうなくなっていた。
次の日のこと。
夕刻の日も沈む時間、花梨は大学での講義を終えてアルバイト先にいた。
場所は大通りに面した雑貨屋。旅行客や若者が訪れるお店で、今風にアレンジされたかんざしや扇子などを取り扱っている。大学に入ってすぐ、花梨はその店で販売員として働いていた。
新緑の季節。今の時期は気候もよいので、客足もそれなりだ。
仕事を終えて帰る間際、花梨は店先にあった天然石の根付けを目にして、ふと昨日のことを思い出した。
あのお店を出てからこちら、今のところ、おかしなことは何も起こっていない。嫌な気配を感じることもなく、あとをつけられるということもなかった。周辺で不穏なことがあったとも聞かない。
危険なことがないなら、それに越したことはないだろう。しかし、嵐の前の静けさのような、そんな予感だけが漠然とあって、花梨は張りつめた緊張感を半ば持て余してもいた。
受け取った黒曜石の鏃は常に持ち歩くようにしている。矢先の反対側、突起のある部分に革紐をくくりつけてあった。万が一にも、落として失くしたりしないように。
割れ口はナイフほど鋭いということだったので、取り扱いには気をつけていたが、さすがに刃の部分が磨耗しているのか、少しさわっただけで傷がつくようなことはなかった。そもそも、これは遺跡などから出土したものなのか、それとも、それっぽく加工されただけのものなのか。下宿先に帰ってからもいろいろと調べてはみたが、よくわからないままだった。
そうして、無意識のうちに黒曜石の鏃に手を伸ばした、そのとき――ふいに背後から、花梨ちゃん、となれなれしく声がかかった。
「……何ですか、センパイ」
思わず不機嫌が声に出てしまう。取り繕いながらも、花梨は慌てて後ろを振り返った。
視線の先にいたのは同じ大学に通っているらしい青年だ。バイト仲間でもあるが、相手の方が花梨より少しあとに採用されている。用もないのに何かとからんでくるので、花梨はひそかに閉口していた。
「もう帰るの? 今日は上がり早いんだね。あと、前々から言ってるけどさ。花梨ちゃん。俺のことは下の名前で呼んでよ」
そもそも、この人は何て名前だっただろうか。花梨は思い出そうと試みたが、すぐには出てこなかったので早々に諦めた。代わりに大きくため息をつく。
「いいじゃないですか。センパイで。実際、同じ大学の先輩なんですよね?」
同じ大学といっても学部が違うからか、構内で会ったことすらない。すげない返事に、相手は苦笑する。
「ここでは花梨ちゃんの方がバイトの先輩だし。あ。でも名字はなしね。名字って、家、って感じで嫌なんだよね。だから、できれば下の名前の方で呼んで欲しいんだけど」
どうして、そうなるのだろう。いまいち理屈がわからない。花梨はあからさまに顔をしかめた。
「嫌ですよ。私の方が先だって言っても、数日のことじゃないですか」
名前にこだわる事情もよくわからない。しかも、話を聞く限り、特に合理的な理由があるわけではないようだ。今後も取り合わないことにする。
正直言って、花梨はこの人のことがあまり好きではなかった。というより、おそらくかなり苦手な部類だ。
しかし、そんなことはおかまいなしに、彼はなおも話しかけてくる。
「つれないなあ。そういえば昨日、裏の小路の方にいたよね? 何してたの? 声をかけようと思ったんだけど、見失っちゃって」
――まさか、あのときつけていたのはこの人だったのか。
だとしたら、無意味に怯えていた自分が馬鹿みたいだ。花梨はひそかに肩を落とした。
そんな落胆などつゆ知らず、彼はお気楽に問いかけてくる。
「このあとさ、どこか遊びに行かない?」
「行きません。というか、これから人と会う約束をしていますので」
そう答えると、彼は大げさに、え、と目を見開いた。
「まさか、相手は男だったり?」
「だとしたら、何だっていうんです」
花梨はそう言うと、強引に話を切り上げようと、そのまま踵を返した。
しかし、よくよく考えれば、この人とは明日もこの場所で顔を合わせることになる。ならば、あまり無下にしても気まずいかもしれない。そう考え直し、花梨は振り返った。そして、肩越しに言い訳する。
「会うのは、あなたと同じ――大学の先輩ですよ。ちょっと、聞きたいことがあるだけです」
それだけ言って、花梨はその場をあとにした。
花梨の視線に気づくと、槐は何気なくそれを手に取った。照り返る光で見えなかったその姿が、はっきりとあらわになる。
それは黒い石だった。
つややかな黒。波打つような表面は、なめらかなようで輪郭は鋭い。形は三角形――のような、少し変わった形をしている。
「黒曜石。マグマが急速に冷え固まってできる火山岩の一種です。天然のガラスとも言われますね。英語名はオブシディアン。模様や特殊な輝きを持つものもありますが、基本的にはこのように黒い石です」
槐はそう言うと、花梨の目の前へ、それを差し出した。近くで見ると、それはよりいっそう黒く見える。それでいて、光を受けて輝く姿は夜空に星がまたたいているようにも思えた。
「これ、自然のものではないですよね」
特徴的な形をあらためて目にして、花梨はそう言った。槐はうなずく。
「黒曜石はガラス質のため、割ることで鋭利な刃のように加工できます。そのため、遠い昔から人々に日常の道具として利用されてきました。これは、そう、
「鏃……武器、ですか」
「あるいは狩猟の道具でもあったでしょう」
槐はそう答えると、しばし思案するように沈黙した。黒曜石の鏃をじっと見つめ、黙ったまま動かない。
不思議に思っていると、槐はふいに、手にしていた鏃を花梨へと差し出した。
「どうぞ、お持ちください。もしかしたら、これがあなたのお力になれるかもしれません」
驚きつつも、花梨は思わずそれに手を伸ばす。素直に受け取るべきか、それとも――まごついている花梨を見て、槐は安心させるようにほほ笑んだ。
「言ったでしょう? 声を聞くのだと。その石には特別な力がある。それは守る力です。お守り代わりに持っていただければ、少なくとも、あなたの身を守ることはできるでしょう」
確かに、よくないものをつれている、と槐は言った。そのこと自体は花梨も自覚し、不安に思ってはいたことだ。
ここにある石には特別な力があるらしい。少なくとも、槐はそう言っている。そして、声が聞こえるのだ、と。ならば、彼がこれを差し出すからには何かしらの意味があるのだろう。
戸惑いつつも、花梨はたずねる。
「でも、その――お代金は……?」
「いりませんよ」
槐は何でもないことのように、そう答えた。しかし、そういうわけにもいかない――とは思うのだが、花梨には黒曜石の鏃がどれほどの価値を持つものなのか見当もつかない。
どうするべきか花梨が悩んでいるうちに、槐は念押しするように口を開く。
「あなたの力になるのなら、黒曜石も本望だと思います。ただし、ひとつだけお約束を」
「何でしょう」
「もし、あなたがそれを手放そうとお考えになられるようなら、捨てたりはせず、ここに返していただけませんか。それだけです」
そんなことか。花梨は拍子抜けする。
しかし、そうして条件を出すからには、この鏃はよほど大切なものなのだろう。やはり、ここにある石たちは売りものではなく、彼にとって特別なものなのかもしれない。
考えた末に、花梨はそれを受け取ることにした。あくまでも、不安をやわらげるためのお守りとして。
花梨は彼らが悪い人だとは思えなかったが、それでも何もかもを信じているわけではない。特別な力を持った石、と言われても、それを言葉どおりに受け取ったわけではなかった。
ただ、もしかしたら槐も、あくまでも気休めとしてこれを渡すのかもしれない。お守りと信じさせて、花梨を安心させるために。こういうことは結局、気の持ちようだろうから。
そうして何も起こらなければ、落ち着いてから、またここにこれを返しに来ればいい。もう一度訪れてもいいと思えるほどには、花梨は彼らに好感を抱いていた。
「わかりました。お約束します。不安を感じていたのは確かですし、お守りとしてお借りできるのなら心強い気がします」
花梨がそう言うと、槐はうれしそうにうなずいた。成り行きを見守っていた桜も、心なしかほっとしているようだ。
気づけばだいぶ日も落ちている。思いがけず、ずいぶんと長居をしてしまった。そろそろ帰らなくてはならない。
花梨はあらためてお礼を言い、いとまを告げた。槐の見送りを背に、桜とともに土間まで戻ってくる。
表の戸から外の通りに出るとき、桜がふいに、あの、と声を上げた。それに応じて向き合うと、桜は意を決したようにその先を続ける。
「よかったら、また来てくださいね。用がなくても。うちはあんまりおしゃべりな人はいなくて。話し相手になってもらえるとうれしいです」
初めて会ったときにも、人好きのする青年だ、と思ったものだが、彼の印象は今もそれほど変わっていない。外見の見た目は花梨とそれほど年が離れているようにも思えないが、それでも、弟がいたらこんな感じだろうか、と思った。
花梨は桜の言葉に快くうなずく。別れを告げ、戸が閉められてしまうと、その建物は周囲に溶け込んでしまった。とてもお店を営んでいるようには見えないが、店主があの様子では、それでも問題はないのだろう。
そういえば、店の名前も聞いていない。
花梨はこの場所を忘れないようにと、周りの様子を確認してから歩き始めた。ここに来たときは辺りに人の気配もないと思っていたが、今になって人影がちらほら見える。大通りからも、ほど近い場所だ。人通りのない方が異常だったのだろう。
追い立てられるような感覚は、もうなくなっていた。
次の日のこと。
夕刻の日も沈む時間、花梨は大学での講義を終えてアルバイト先にいた。
場所は大通りに面した雑貨屋。旅行客や若者が訪れるお店で、今風にアレンジされたかんざしや扇子などを取り扱っている。大学に入ってすぐ、花梨はその店で販売員として働いていた。
新緑の季節。今の時期は気候もよいので、客足もそれなりだ。
仕事を終えて帰る間際、花梨は店先にあった天然石の根付けを目にして、ふと昨日のことを思い出した。
あのお店を出てからこちら、今のところ、おかしなことは何も起こっていない。嫌な気配を感じることもなく、あとをつけられるということもなかった。周辺で不穏なことがあったとも聞かない。
危険なことがないなら、それに越したことはないだろう。しかし、嵐の前の静けさのような、そんな予感だけが漠然とあって、花梨は張りつめた緊張感を半ば持て余してもいた。
受け取った黒曜石の鏃は常に持ち歩くようにしている。矢先の反対側、突起のある部分に革紐をくくりつけてあった。万が一にも、落として失くしたりしないように。
割れ口はナイフほど鋭いということだったので、取り扱いには気をつけていたが、さすがに刃の部分が磨耗しているのか、少しさわっただけで傷がつくようなことはなかった。そもそも、これは遺跡などから出土したものなのか、それとも、それっぽく加工されただけのものなのか。下宿先に帰ってからもいろいろと調べてはみたが、よくわからないままだった。
そうして、無意識のうちに黒曜石の鏃に手を伸ばした、そのとき――ふいに背後から、花梨ちゃん、となれなれしく声がかかった。
「……何ですか、センパイ」
思わず不機嫌が声に出てしまう。取り繕いながらも、花梨は慌てて後ろを振り返った。
視線の先にいたのは同じ大学に通っているらしい青年だ。バイト仲間でもあるが、相手の方が花梨より少しあとに採用されている。用もないのに何かとからんでくるので、花梨はひそかに閉口していた。
「もう帰るの? 今日は上がり早いんだね。あと、前々から言ってるけどさ。花梨ちゃん。俺のことは下の名前で呼んでよ」
そもそも、この人は何て名前だっただろうか。花梨は思い出そうと試みたが、すぐには出てこなかったので早々に諦めた。代わりに大きくため息をつく。
「いいじゃないですか。センパイで。実際、同じ大学の先輩なんですよね?」
同じ大学といっても学部が違うからか、構内で会ったことすらない。すげない返事に、相手は苦笑する。
「ここでは花梨ちゃんの方がバイトの先輩だし。あ。でも名字はなしね。名字って、家、って感じで嫌なんだよね。だから、できれば下の名前の方で呼んで欲しいんだけど」
どうして、そうなるのだろう。いまいち理屈がわからない。花梨はあからさまに顔をしかめた。
「嫌ですよ。私の方が先だって言っても、数日のことじゃないですか」
名前にこだわる事情もよくわからない。しかも、話を聞く限り、特に合理的な理由があるわけではないようだ。今後も取り合わないことにする。
正直言って、花梨はこの人のことがあまり好きではなかった。というより、おそらくかなり苦手な部類だ。
しかし、そんなことはおかまいなしに、彼はなおも話しかけてくる。
「つれないなあ。そういえば昨日、裏の小路の方にいたよね? 何してたの? 声をかけようと思ったんだけど、見失っちゃって」
――まさか、あのときつけていたのはこの人だったのか。
だとしたら、無意味に怯えていた自分が馬鹿みたいだ。花梨はひそかに肩を落とした。
そんな落胆などつゆ知らず、彼はお気楽に問いかけてくる。
「このあとさ、どこか遊びに行かない?」
「行きません。というか、これから人と会う約束をしていますので」
そう答えると、彼は大げさに、え、と目を見開いた。
「まさか、相手は男だったり?」
「だとしたら、何だっていうんです」
花梨はそう言うと、強引に話を切り上げようと、そのまま踵を返した。
しかし、よくよく考えれば、この人とは明日もこの場所で顔を合わせることになる。ならば、あまり無下にしても気まずいかもしれない。そう考え直し、花梨は振り返った。そして、肩越しに言い訳する。
「会うのは、あなたと同じ――大学の先輩ですよ。ちょっと、聞きたいことがあるだけです」
それだけ言って、花梨はその場をあとにした。