第26話

文字数 519文字

26
 実家に寄って部屋の本棚からノートを引っ張り出して家に帰った。連絡をせずに帰ったせいもあるが、両親はいなかった。また謎の旅行に出かけているのかもしれない。なんだか空き巣に入って悪いことをしているみたいだった。
 ノートは二冊あり、一つは『純粋理性批判』を読みながらメモをとった大学ノート、もう一つはその時々に思いついたことや考えていることをしたためた自由帳。大学ノートは『純粋理性批判』のメモに40ページを割いていた。もはやメモと言える量ではない。読み返しながらよくこんなに筆を走らせたなと我ながら感心した。
 自由帳には〈純粋理性批判 私的乱暴要約〉とあった。
“まだ経験していない或はこれから経験する何かをすでに経験したこととして前提しないと、そもそも経験自体が与えられない”という大前提を欠くと、いくら感性や理性が働こうとも何も知ることができない、つまり無である。だから、これから起こることをみんなと経験し、楽しむ私を大切にしてほしい

 こんなことを書いていたとはもうすっかり忘れていたが、高校生にしては立派な記述ではないかと思う。
 鈴ちゃんへの特別講義のために、この二冊のノートを参考にして、純粋理性批判に関する簡単な資料を作成した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み