第16話

文字数 802文字

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 その日も次の日も竹内さんからの返信メールはなかった。直前でキャンセルしたことに対して怒っているのだろうか。しかし僕はキャンセルしたわけではない、実際には竹内さん宅に行き、娘と話をした。僕は竹内さんに送信したメールを見直してみた。また連絡しますと打っていた。もしかすると僕からの連絡を待っているのだろうか。そうだとしても何らかの返事があってもいいのではないか。そう思っているときに電話が鳴った。
「もしもし」と僕は電話に出た。
「もしもし竹内です」
 その声は少女の方の竹内だった。
「小川さんですか?この間家に来た」
何事かと思って、慎重にそうだと僕は答えた。
「どうして名前が分かったの?それに番号も」
「母親のケータイをこっそり見ました。あの日の近辺で連絡をとっていたのがこの番号だったからそうじゃないかと思って」少女の口調はあの時よりもいくぶん丁寧になっている。
僕はなるほどと言った。
「これは君のケータイからかけてるの?」
「うん。あの、君って止めて下さい、何か嫌。りんっていいます。鈴と書いてりん」
「分かった。鈴ちゃんね。それでお母さんのケータイを覗いたってことは、お母さんとは何も話をしていない?」
「うん、してない。私からは何も言わなかったし、お母さんからも何も言ってきてない」
「そっか。あの後僕から鈴ちゃんのお母さんにメールをしたんだけど返信が来てない」
「何てメールしたの?」
「急用で今日は行けなくなりました。また連絡しますって」
「じゃあ家庭教師の件ははっきりと断ってはいない」
疑問符があるようなあるいは自己完結ともとれるような言い方だった。
「鈴ちゃんはそれを望んでいなかったのだからはっきりと断りを入れるべきだったかもしれない」
「ちょうどよかった」と今度は自分に言い聞かせるように呟いた。
「ちょうどよかった?」
「あの、一度会ってお話できませんか?」僕の聞き返しには答えずにそう訊いた。
「僕は良いけど」
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