25

文字数 950文字

 「何度かお見かけしたけど、知り合いが住んでいるの。」
 わたしは、遠慮なく尋ねた。少し躊躇しているリリカが、見掛けよりも純粋で真面目な娘であるのを判らせてくれた。
 「‥‥いいぇ、ラーナさんにお会いしたくて。」
 「もっと、早く声をかけてくれればよろしかったのに。」
 わたしの言葉が親身に聞こえたのだろう。リリカは、顔を上気させ目を輝かせた。愛しい恋人を見るような熱い視線を向けた。
 「‥‥嫌われるのが、辛いのです。」
 リリカの話す前に一呼吸置く気怠さが少し切なく思えた。その仕草や喋り方は、年上の殿方になら人気があるだろう。でも、わたしのような同性には困らせるだけで好かれない。若い本人は、気付けなくても。不幸なことなのだ。
 「‥‥でも、安心しました。御爺様の仰る通りの御方で。」
 わたしは、今までも嫌われるのを恐れる女を沢山見てきた。裕福に生まれ育っているそのような女から全うな将来を見せてもらったことがなかった。
 「どうかしら。」
 わたしの曖昧な返事がリリカをより引き付けていた。
 「‥‥御爺様とは、昔からのお知り合いなのですね。」
 「わたしがこの海辺の町に来て、始めて驚かせてくれた人です。」
 わたしは、謎掛けのように答えた。実際のところ、生まれ育ちの良い男の繊細さに驚かされたのだ。初めて出会った日、わたしが小馬鹿にする態度にリリカの祖父は、興味を抱いたのか。学生のわたしを食事に誘ったのだった。その頃には、既に三十歳半ばを過ぎていて、綺麗な若い奥様と息子を持つ恵まれた生活を送っていた。
 「‥‥御爺様が、年若いのに聞き上手だったと。」
 リリカの言葉に、微笑みを向ける以外になかった。あの時、わたしは年上の男を哀れみ同情していたのだ。
 「昔は、忍耐強かったかしらね。」
 「‥‥ああぁ、素敵です。」
 リリカは、心底から称賛した。
 会話が続いても、わたしの気持ちは離れていた。

 そこに現れたのが、ロサンだった。リリカと挨拶をしてご機嫌を窺った。
 場の空気を読めない男が、その時は有難かった。話の潮時を考えていたわたしは、歓待して見せた。リリカの困惑を助けるように優しく言った。
 「御免なさい。今日は、とても楽しかった。」
 リリカは、遊びに寄せてもらってもいいかと尋ねた。わたしが拒む理由もなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み