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文字数 1,286文字

 嵐が去った後、青空が広がっていた。路線は途中の土砂崩れで不通になり復旧のめどがたっていなかった。
 バスで帰ろうか思案していると、ガインから既に此方に向かっている連絡が届いた。
 ガインの申し出は、わたしの気持ちを楽にした。

 単車で駆け付けたガインの顔を見て安堵したのだろう。わたしは、若い頃のように少しばかり甘えて小言を並べた。
 「いつ以来かしら。この齢で、スカートには酷ね。」
 「昔もそう言いましたが、乗って頂けましたよ。」
 ガインの笑顔と言葉は、どこまでも優しかった。
 「若い頃を思い出させるなんて、残酷な男ね。」
 わたしの返す言葉も温かさが含まれていた。
 ガインの家から帰った後、わたしの密かな滞在を知り残念がったのだ。リレイド達との旅の話を伝え聞き、春の嵐に遭遇したわたしを心配して駆け付けたのだった。
 「それにしても。いつまでもまめね。奥様に悪いわ。」
 「貴女のことなら、あいつは否定しません。貴女の崇拝者だし、命の恩人だと信じていますから。」
 ガインの言葉は、半分が虚構だった。今さら、真実を伝えようとは考えなかったが、それを知ったところでレイサの態度に変化が見えるとも思えなかった。ガインの人柄と勇気に甘えていた。おそらくは、この先、誰も言い出さないだろう。
 「事故は、ゴメンよ。不倫心中と間違えられたくないわ。」
 わたしの冗談にガインは、指を天に立てて神妙に応えた。
 「素晴らしい提案です。」
 ガインの腰は、若い頃と変わらなかった。節制しているように見えなかったが、体質なのだろうか。そう考えると自然と口元に笑みが浮かんだ。腰に回した腕に力を込めた。
 「‥‥ガイン、何歳になったの。」
 わたしは、思わず尋ねた。風を切る音にガインの耳に届かなかった。

 急ぐ帰路ではなかった。途中で何度か休憩をした。話を重ねながら若い頃に戻る二人がいた。
 古城が見える岬の酒場に着くと暗くなっていた。わたしは、礼を兼ねて労った。
 「君の運転は、今も素敵ね。」
 わたしを後ろに乗せて戻ったガインは、英雄だった。嵐の一過なのに知り合いが多く集まっていた。ガインの帰りを連絡したのかと勘繰りたくなるほどに顔ぶれが揃っていた。海辺の町を数日離れた後だったからだろう。わたしは少し余裕が生まれていた。長く会っていなかったミゲルにも軽く挨拶を返せた。
 「嵐の国からのご帰還だね。無事でなりより。」
 ミゲルの物言いは、若い頃のままだった。わたしは、皮肉を返した。
 「わたしのために集まってくれたのかしら。」
 「そうだと言ったら、信じてもらえますか。」
 ミゲルは、相も変わらず喰えなかった。容姿が端麗で人当たりが好いだけに厄介な男だった。わたしは、言葉に小細工せず尋ねた。
 「信じさせてほしいけど。‥‥誰か、待っているの。」
 「珍しい人物が現れると連絡が入ったのです。」
 わたしは、それ以上の詮索をしたくなかった。
 「そぅ。‥‥じゃ、その人物が現れたら教えてね。」
 そう言い残して、次の挨拶に向かい離れた。

 その夜は、何年も話していなかった旧知に会えた。感動を隠して笑顔で近況を語り合った。
 
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