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文字数 1,339文字
数日は、部屋で過ごした。考えを整理する時間と環境が必要だった。
導き出そうとする結論が、いたって簡単なのに気付いた。噂に振り回されてあたふたとするのは、もう止めにしようと考えた。気持ちに余裕ができると、もはや、キラトの生死なんかどうでもよく思えた。
そんな思いのすぐ後に、レオンから短い伝言が届いた。期待をしていなかった男の一方的な仕打ちが、腹立たしかった。既にカンデから話を聞いていたから、短い溜息が混ざる落胆だけで済んだ。
『‥‥そうよね。あの男は、逃げるのを恥ずかしく思っていない。』
レオンの若い頃からの生き様を想い返しながら怒りの持って行く先を探した。
『次にこの街で見かけたら、後ろから蹴り上げてあげる。ハルトと並べてね。』
わたしは、胸の内で固く誓った。
「何時もの生活に戻るのが、先ずは大切ね。」
翌朝、ドナの館が見える店に出掛けた。
気分転換を兼ねて検索すると、博物館の紹介に目が留まった。以前から気になる催し物を企画していた。少しの迷いもなかった。
路面電車で宮殿の敷地に建てられた博物館を訪れた。建物の近未来的なデザインは、わたし好みだった。
入場者の疎らな平日で、ゆっくりと鑑賞できるのが嬉しかった。古い土器は、わたしを落ち着かせてくれた。一万年と二千年たっているのに色褪せない造形を前にして普遍的な価値を改めて教えられた。
『‥‥人の想像力は、素敵ね。』
わたしは心の中で呟いた。不意に亡き男友達の言葉が蘇った。
──技術が進歩して、時代を重ねても、我々の思考は、熟成されないさ。これからも。
彼の魅力に引き寄せられたが、理屈っぽさを苦手に感じた人もいただろう。
『君が、それをいえば滑稽なだけだったかな‥‥。今は、そう思うよ。』
そう心の中で呟き、気持ちを切り替えた。
事務所を覘くと、学芸員のマリアンが見えた。久々のわたしに驚き歓待してくれた。
「仕事は、何時まで。」
わたしは、誘った。
博物館の喫茶室で提供される生菓子は、変わらずに美味しくわたしを幸せに浸らしてくれた。その後は、併設される公園を巡り過ごした。
約束の時間にマリアンは、姿を見せた。私服の立ち姿が粋だった。
わたしより二回りも年下のマリアンは、仕事でも私事でも卒なく向き合える才女だった。
「パートナーは、元気。」
「相変わらずです。」
マリアンは、同棲している若い女子との近況を簡素に伝えた。
「今回の企画、貴女でしょう。」
「判りますか。」
マリアンはニコリともしないが、内心悦んでいた。
「貴女らしさが、素直に見えるわ。」
「お姉さまに褒めて頂けるのは、光栄です。迷っている齢でもないですから。」
そう言うマリアンは、出会った頃から思いっ切りの良い娘だった。何事な対しても躊躇する素振りも見せない毅然とした理性を備えていた。若い頃は、思考に体がついていかなかったのだろう。でも、そのもどかしさに苦しみ悩むこともなく学生をしていた。わたしを驚かせた一人だった。
マリアンが、先に言った。
「今夜、予定はありません。」
「それなら、付き合ってね。」
職員専用の裏口からマリアンの車で博物館を後にした。彼女の運転は、性格と一緒で安心できた。普段の日常を想い出せるわたしがいた。
導き出そうとする結論が、いたって簡単なのに気付いた。噂に振り回されてあたふたとするのは、もう止めにしようと考えた。気持ちに余裕ができると、もはや、キラトの生死なんかどうでもよく思えた。
そんな思いのすぐ後に、レオンから短い伝言が届いた。期待をしていなかった男の一方的な仕打ちが、腹立たしかった。既にカンデから話を聞いていたから、短い溜息が混ざる落胆だけで済んだ。
『‥‥そうよね。あの男は、逃げるのを恥ずかしく思っていない。』
レオンの若い頃からの生き様を想い返しながら怒りの持って行く先を探した。
『次にこの街で見かけたら、後ろから蹴り上げてあげる。ハルトと並べてね。』
わたしは、胸の内で固く誓った。
「何時もの生活に戻るのが、先ずは大切ね。」
翌朝、ドナの館が見える店に出掛けた。
気分転換を兼ねて検索すると、博物館の紹介に目が留まった。以前から気になる催し物を企画していた。少しの迷いもなかった。
路面電車で宮殿の敷地に建てられた博物館を訪れた。建物の近未来的なデザインは、わたし好みだった。
入場者の疎らな平日で、ゆっくりと鑑賞できるのが嬉しかった。古い土器は、わたしを落ち着かせてくれた。一万年と二千年たっているのに色褪せない造形を前にして普遍的な価値を改めて教えられた。
『‥‥人の想像力は、素敵ね。』
わたしは心の中で呟いた。不意に亡き男友達の言葉が蘇った。
──技術が進歩して、時代を重ねても、我々の思考は、熟成されないさ。これからも。
彼の魅力に引き寄せられたが、理屈っぽさを苦手に感じた人もいただろう。
『君が、それをいえば滑稽なだけだったかな‥‥。今は、そう思うよ。』
そう心の中で呟き、気持ちを切り替えた。
事務所を覘くと、学芸員のマリアンが見えた。久々のわたしに驚き歓待してくれた。
「仕事は、何時まで。」
わたしは、誘った。
博物館の喫茶室で提供される生菓子は、変わらずに美味しくわたしを幸せに浸らしてくれた。その後は、併設される公園を巡り過ごした。
約束の時間にマリアンは、姿を見せた。私服の立ち姿が粋だった。
わたしより二回りも年下のマリアンは、仕事でも私事でも卒なく向き合える才女だった。
「パートナーは、元気。」
「相変わらずです。」
マリアンは、同棲している若い女子との近況を簡素に伝えた。
「今回の企画、貴女でしょう。」
「判りますか。」
マリアンはニコリともしないが、内心悦んでいた。
「貴女らしさが、素直に見えるわ。」
「お姉さまに褒めて頂けるのは、光栄です。迷っている齢でもないですから。」
そう言うマリアンは、出会った頃から思いっ切りの良い娘だった。何事な対しても躊躇する素振りも見せない毅然とした理性を備えていた。若い頃は、思考に体がついていかなかったのだろう。でも、そのもどかしさに苦しみ悩むこともなく学生をしていた。わたしを驚かせた一人だった。
マリアンが、先に言った。
「今夜、予定はありません。」
「それなら、付き合ってね。」
職員専用の裏口からマリアンの車で博物館を後にした。彼女の運転は、性格と一緒で安心できた。普段の日常を想い出せるわたしがいた。