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文字数 1,267文字
旅行会社は、わたしの要望に応えるプランを幾つか提示してくれた。少し期待させる内容だった。若い店員の直向きな対応が、荒んだ気持ちを和らげていた。わたしは、持ち帰ることにした。
奥で電話対応する友人のリレイドに目で合図を送り店を出た。暫く歩いていると、リレイドが追いかけてきた。
「気に入ったのがあったかい。」
リレイドは、わたしの周りで昔から気兼ねさせない性格の一人だった。歳を重ねても接し方は機知に富んで退屈させなかった。独身を通してきた理由を詮索したくなる気になる男だった。
「会社の企画で下見に行くのがあるけど、一緒にどう。」
「‥‥あら、口説いてくれるの。」
「口説かしてくれるのか。」
リレイドは、陽気に言葉を返した。今から思えば、もしも若い頃に結婚を考えるなら選択として可能な一人だった。
「でも。団体視察は、無理よ。」
「同行は、対応していた新人だけだ。」
旅行企画の下見で一泊二日の旅だった。
「今、店員の彼女さんが勧めてくれた場所でしょう。」
そう確かめながら、リレイドの意図に感付いた。疑う素振りを隠して恩を売った。
「‥‥まぁ、いいでしょう。貸しにするわね。」
「感謝する。相変わらず、敏いな。」
「それで、何時の出発なの。」
「急だけど、明日。」
朝早く、旅行会社の車が迎えに来た。若い店員が、運転していた。
「鞄は、それだけか。」
リレイドは、小振りの鞄を積み込みながら言った。
「昔と変わらないな。」
「これでも、増えたのよ。」
「そうだな。」
リレイド達と思い立ったように車で出掛けた身軽な日々が懐かしかった。
店員の名前は、レリアだった。その姓を耳にした瞬間、わたしは聴き直さなかったもののリレイドに横眼で視線を送った。憶えがある姓は、わたしを警戒させるものだった。
レリアの生真面目な運転は、時刻通りに進みわたしをより不安にさせた。
最初のドライブインでリレイドに確かめた。
「レリアの姓って、本当なの。悪い冗談でしょう。」
わたしは、レリアの中に面影を捜しながら探りを入れた。
「まさか、彼女の娘だと云って驚かせないでよ。」
「驚かすよ‥‥。」
「‥‥嘘でしょう。もぅ、悪夢は沢山なのに。」
わたしは、本気で溜息を零した。難しい顔をして黙り込んだわたしにリレイドは、詫びた。
「誘った理由の一つだよ。」
「貴男は、昔からそうね。」
わたしは、諦めに似た思いを隠して言った。
「それで‥‥。レリアちゃんに言い寄られたの。」
「‥‥。」
図星だった考えに、わたしはたじろいで言葉を失った。リレイドの困惑する表情が遠く感じた。
「‥‥抱いちゃいなさいよ。」
「揶揄うなよ。責められても仕方ないか。」
リレイドは、殊勝だった。わたしがそれ以上言い出さないのを辛抱強く待つ理性があった。
レリアが戻ってくるのに気付いたわたしは、リレイドに手短に言い渡した。
「それはそれ。これはこれ。わたしも大人ですから、ご心配なく。詳しいことは、向こうで聞かせてもらうわ。」
それからの車中は、わたしに少し無理をさせた。
奥で電話対応する友人のリレイドに目で合図を送り店を出た。暫く歩いていると、リレイドが追いかけてきた。
「気に入ったのがあったかい。」
リレイドは、わたしの周りで昔から気兼ねさせない性格の一人だった。歳を重ねても接し方は機知に富んで退屈させなかった。独身を通してきた理由を詮索したくなる気になる男だった。
「会社の企画で下見に行くのがあるけど、一緒にどう。」
「‥‥あら、口説いてくれるの。」
「口説かしてくれるのか。」
リレイドは、陽気に言葉を返した。今から思えば、もしも若い頃に結婚を考えるなら選択として可能な一人だった。
「でも。団体視察は、無理よ。」
「同行は、対応していた新人だけだ。」
旅行企画の下見で一泊二日の旅だった。
「今、店員の彼女さんが勧めてくれた場所でしょう。」
そう確かめながら、リレイドの意図に感付いた。疑う素振りを隠して恩を売った。
「‥‥まぁ、いいでしょう。貸しにするわね。」
「感謝する。相変わらず、敏いな。」
「それで、何時の出発なの。」
「急だけど、明日。」
朝早く、旅行会社の車が迎えに来た。若い店員が、運転していた。
「鞄は、それだけか。」
リレイドは、小振りの鞄を積み込みながら言った。
「昔と変わらないな。」
「これでも、増えたのよ。」
「そうだな。」
リレイド達と思い立ったように車で出掛けた身軽な日々が懐かしかった。
店員の名前は、レリアだった。その姓を耳にした瞬間、わたしは聴き直さなかったもののリレイドに横眼で視線を送った。憶えがある姓は、わたしを警戒させるものだった。
レリアの生真面目な運転は、時刻通りに進みわたしをより不安にさせた。
最初のドライブインでリレイドに確かめた。
「レリアの姓って、本当なの。悪い冗談でしょう。」
わたしは、レリアの中に面影を捜しながら探りを入れた。
「まさか、彼女の娘だと云って驚かせないでよ。」
「驚かすよ‥‥。」
「‥‥嘘でしょう。もぅ、悪夢は沢山なのに。」
わたしは、本気で溜息を零した。難しい顔をして黙り込んだわたしにリレイドは、詫びた。
「誘った理由の一つだよ。」
「貴男は、昔からそうね。」
わたしは、諦めに似た思いを隠して言った。
「それで‥‥。レリアちゃんに言い寄られたの。」
「‥‥。」
図星だった考えに、わたしはたじろいで言葉を失った。リレイドの困惑する表情が遠く感じた。
「‥‥抱いちゃいなさいよ。」
「揶揄うなよ。責められても仕方ないか。」
リレイドは、殊勝だった。わたしがそれ以上言い出さないのを辛抱強く待つ理性があった。
レリアが戻ってくるのに気付いたわたしは、リレイドに手短に言い渡した。
「それはそれ。これはこれ。わたしも大人ですから、ご心配なく。詳しいことは、向こうで聞かせてもらうわ。」
それからの車中は、わたしに少し無理をさせた。