第38話

文字数 1,284文字

「やったー! 私のご主人様は、犯人にならない! 捕まらない!」
 今まで話に加わらなかった安浦は、居間でも反響するくらいの声をだし立ち上がって万歳をしている。
「よかった……」
 私はカタカタと震えている手を揉んで、ほっとした。怖さが薄くなりだした。仮にも異界の者でも、人を殺すのは精神的にかなり辛いもののようだ。
「取り合えず。南米に行かなきゃならないのね」
 呉林は溜め息まじりに呟いた。
 私は「どうやって」という当たり前のことを、口に出そうとしたが飲みこんで、
「飛行機代と何週間の滞在費を稼ぐしかないか」
 私はがっくりとした。週払いで薄い私の財布で、南米まで……不可能では?パチンコや競馬でも稼げない。ギャンブルが駄目だとすると……まじめに働くしかないか。でも、どれくらいかかるのだろうか?
「渡部と角田も連れて行った方がいいかな?」
「そうね。その方がいいでしょ。姉さん?」
「ええ。と言っても誰のこと? 私も行こうかしら?」
 なんとも大旅行になりそうである。そして、一週間も赤レンガの喫茶店の開店を待つ必要が完全になくなった。

 せんべいを一人で食べつくした安浦を家に帰らせてから、一人で帰ることにした。
 次の日、その日に起きた作業員の死は……ニュースで何も取り上げられなかった。
 何かの儀式の最中のようだった。
「ウロボロスか、長い長い年月。わしは探した。そして生贄を捧げた。だがまだまだじゃな……。何百人と生贄を捧げるも今だに尾が残る。やはり……」
 カルダが苦悶の表情で俯いて目を瞬いた。
「もう少しだ。もう少し……」
 私の意識が入ったルゥーダーは、そんな母を羨ましく思っていた。

7月?日
 翌日、大学を休んでいる安浦が早朝、アパートのチャイムを鳴らしてきた。
「おはようございます! ご主人様!」
 寝ぼけ眼でドアを開けると、何やらごっちゃりしている黒の上下の服装の安浦が、勝手に上がり込み、キッチンへと向かう。両手には色々な食材が入った袋を持っていた。
 私は南米にどうやったら行けるのかと、考えながら株式会社セレスへと出勤する事にな
っている。谷川さんではないので、二・三週間くらいの休日が取れなくなったのだ。
そして、一連の危険な夢に終止符を打つために、どうしても、はるばる南米まで行かな
ければならなかった。
 角田や渡部もだが昨日の夜に呉林が連絡したようだ。
 安浦はこれから? 私の身の回りを手伝ってくれるようだが?
「安浦はどうやって、南米に行くか考えたか」
 私はキッチンで、この上なくニコニコしている安浦に声を大きくして尋ねた。
「お金を貯めて……飛行機で行くのはどうでしょうか。一緒に頑張りましょう。ご主人様。あたしもバイトをします。家事や洗濯、家の掃除、頑張ります。二人で南米に行きましょう。ご主人様はお仕事、頑張って下さい!」
 笑顔でガッツポーズをされても……困るんですけど……。私には呉林がいるのだ。
 こうして、私と安浦は仲間二人三脚で、南米に向かうための準備をするのだった。あれ、何か変だぞ……。
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