第16話

文字数 1,452文字

「わかったわ」
 だが、その次に私と呉林は強く頷いた。
 外に出て、扉を閉めると、鍵を探しに行くことにした。また歌が聞こえてくる。今度は少し悲しい歌に聞こえる。
「鍵と言っても、この広い刑務所の中。どこにあるのか……。ああ……俺が最初に行った事務所しかないかな」
 震える足を叱咤して、私は、ここは一体、地球の何処なのだろう。と考えた。
私たちは事務所の方へと延々と薄暗い通路を歩きだす。天井の裸電球はぶらりとしていた。
重い気分で辺りを見回していると、呉林はいつも通りの顔で歩いていた。
「私、さっきから嫌な感じがしてしょうがないのよ。ここは刑務所だから死刑囚でも出てきそうだわ」
「や、やめてくれよ! 俺だって混乱していて怖いんだからさ! それより、早くあいつらを助けたら、さっさと逃げよう」
 私は強く頭を振った。ここが不可解な夢の世界なのかは別として、どうやったら元の世界に戻れるのだろうか。恐怖と混乱でぐちゃぐちゃになりそうな頭で、私はそればかり考えていた。……早く帰りたい。
「きみが占いか呪いだっけ? で、鍵の在り処を調べるっていうのは?」
 私は意外性に賭けてみた。
「でも、私あのコーヒーを飲んでから調子がおかしいのよ」
 呉林は茶色い長めの髪をかきあげてから考えだした。
「でも、その不思議な感じる力は出来るのか……?」
 しばらく歩くと、さっきの誰もいない事務所に辿り着いた。呉林は、さっそく散乱している机の中や奥のロッカールームを探しだす。私もそれに続いた。
この事務所の明かりも、天井に数個しかないやや大きめの裸電球だけであって、薄暗くなっている。震えを抑えた私は小ざっぱりとした机の上にあった懐中電灯片手に机の引き出しを一つ一つ探しだした。
 呉林は奥のロッカーを中心に探した。ロッカーの中には刑務官のジャンパーや着替えがあるので、鍵が一番ありそうな場所だった。
 しばらく根気よく探したが、やはり無い。一時間以上しただろうか、私はだんだん疲れてきた。
「ここには無いようだし、他を探そう」
「ええ」
 呉林も少し応えているようだ。額に浮かんだ汗が物語っている。
私と呉林はまた通路に出ることになった。私は今では鍵のことより、この不可思議な世界から早く出ることだけを考えるようになってきた。
 私は、溜め息をついて、
「はあ、どうやったらここから出られるんだ!」
 私は未だに極度の恐怖と混乱した頭で吐き捨てた。
「その前に鍵よ」
「あ、うん」
 私は気のない生返事を返し、額に浮き出た冷や汗とも疲労の汗ともいえない汗を拭う。
 それを聞いた呉林は私の方に怖い顔を向けて来た。
「あなた! さっきの人たちのこと、どうてもいいって思っていない! それじゃあの人たちが可哀想よ!」
 呉林が厳しさと悲しさが入り混じった顔をした。
「いい! 強い意志を持たなきゃ駄目よ! でなければ、この不思議な場所からは出られないわ! ここから永久に出られないの! あの人たちの協力が必要不可欠よ!」
 呉林は少しだけ怒りを含んだ声で、厳しく捲し立てる。
 私は疲れていた。どうでもいいという感情を顔に出し、
「こんな世界じゃ。あいつらがいてもいなくても大して変わらないさ」
「そんな……。今は一人でも多くの仲間がいたほうがいいでしょ。あの人たちだって私たちと同じくこの世界に迷い込んできたのよ。いい、もっと強い意志を……」
 呉林が言い終わらないうちに、私に強い感情が迸りそのまま声になった。
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