第26話

文字数 1,539文字

「うーんと。その手もあるかも。ここが夢の世界だとしたら出来るのかもしれないわ。ここで寝ると元の世界で起きられるのかも知れない。何となく間の抜けた話ね」
 早速3人はその場で横になった。みんなで横になると、こんな世界へと迷い込んだ恐怖が幾らか薄らいだ。
「こんな世界に来たりすると、現実って何なのって、思えてしまうわね」
 呉林は隣の私に向かって呟く。
「ああ。以外と現実って強いものだけど、それよりこの世界は強いって感じだね。頭が混乱しそうだが……」
 私はそう受け答えをした。呉林は目を大きく開け、
「もし、私たちの世界に戻れなくなったら、やっぱりこの世界で三人で生きていくしかないんじゃないのかな」
 呉林は冗談半分の口調で呟く。
そこは、森林というには懸け離れている。云わば均整のとれた雑木林のようだった。3人は木々と青葉の匂いの心地よい風を受け、眠気が生じてきたようだ。私を除いて……。
 しばらくすると、安浦が眠りだした。その次に呉林。私はしばらく起きていた。二度寝は苦手なのだ。
 柔らかな風を受けて、横になっている私の頭に幾つかの疑問がよぎってくる。いろいろと考える。渡部や角田もこの世界に来たのだろうか、本当にこの世界で寝ると元の世界で起きられるのだろうか、呉林は今回ばかりはかなり動揺していたな。でも、この世界にある驚異が何であろうと元の世界に戻ればどうってことはないな。
 私は眠っている呉林の綺麗な顔を見つめていたら、急にストンと眠った。

 私はルゥーダーという青年の体に入っている。入っているというとルゥーダーの体へ私の意識がその中に入ると聞こえるが、少し違う。私の意識がルゥーダーの意識の中心の外側に生じた。
 彼は私に内心気が付いているのだろうか。
「カルダ様。俺の母だった頃。思い出しましたか」
 カルダと言われた老母が首をユルユルと振る。
 外は深々とした雪が降っている。二人は暖かい焚き火を囲んでいた。
「わしの息子は、どこへ行った。わしは知らん」
 目の前にいるルゥーダーという子をカルダという名の母は知らないと言う。

 数時間が経った。起き上がり、私と呉林は途方に暮れた。何も起きないのだ。元の世界にも戻れていない。
 安浦はさすがに現状の不可解さに混乱し青い顔で震えていた。
もうどうしようもない。
「どうしよう。こんなことって」
 呉林がか細い声で言った。呉林もさすがに事態の深刻さに恐ろしくなったようだ。そして、ぶつぶつと独り言を言い出しながら起き上る。
「とりあえず、何か食べ物をさがそうよ」
 私は二人を元気づける。こんな世界でも何か食べ物くらいあるだろうと私は考えた。不可解さには確かに応えているが、腹も減っていたし、元気をだして二人を促す。
イースト・ジャイアントでは何も食べられなかった。朝食もとってないし。呉林はぶつぶつ言いながらついて来た。安浦は食べ物と聞いて青かった顔に少し笑顔が生じる。
均整の取れた雑木林を歩いていると、地面にゴルフボールが落ちていた。
「ここは、ゴルフ場だ……」
 私は驚きの声を発し、少し先まで歩いてみると、遠くに広大な芝生が広がる。バンカーと呼ばれる砂地もいくつもあり、遥か地平線のところに赤い旗のポールが立っていた。膨大な数の池や橋、丘も向こうに見えた。
 こんなところで、あのテレビ頭に出会ったらと思うと心臓が縮みあがった。戦う道具もないし、隠れるところもない。それでも、不安を押し込み。この不可思議な体験の仲間である呉林たちと歩いくことにした。ここにいても仕方がないのだ。
 広大過ぎる芝生は遥か地平線まで続いている。いったいどこまで続いているのだろう。
「ここ地球と同じ大きさかも。ご主人様」
 安浦が途方もないことを呟いた。
 地球と同じ大きさ……。
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