第50話

文字数 2,043文字

「姉さん。その話、メルクリウスの蛇とも関係しているのね?」
 難しい話を楽に話している呉林である。
「そうよ。私も本で読んだだけだけど、それと同時にメルクリウスの蛇とも言うわ。そう両性具有の神よ」
 霧画の話に、
「メルクリウスの蛇……?」
 私は壮大なスケールで、頭がどうかした。さっきの不思議な力もあまり理解が出来ないので尚更だった。取り合えす南米に行って、悪いシャーマンを何とかして、夢の世界の反乱を止めれば良いだけのこと。至極単純に私はそう考えることにした。 
「つまり、メルクリウスは錬金術でいう両性具有の神のこと、太陽と月の両性具有でもあるの。そう夢と現実の神。メルクリウスの蛇(ウロボロスの蛇)は地球と同じぐらいの大きな蛇で、何十億年と自分の尾を呑み込んでいて、今では小さい輪のようになっているの。それをシャーマンはその蛇を起こしてから、尾を全部丸飲みさせてしまうはず。最後に頭を殺害してしまうなどするんじゃないかしら。そうすると、当然、夢の世界と現実の世界が崩壊してしまうの。これは大変なことよ」
「……」
 霧画の有難い説明は……チンプンカンプンだった。
「つ・ま・り、ウロボロスの蛇とは、メルクリウスの蛇のことを言っていて、ウロボロスは永遠回帰。そして、連続性を表しているのよ。それを崩壊させると、世界が終ると言われているわ。具体的には、その蛇が自分の尾を飲み込み終わって頭を殺すと、それは太陽と月の両性具有の神でもあるのだから、この世界は現実でもなく夢でも無くなってしまうのよ……多分だけどね。……気楽に聞いてね」
 呉林が噛み砕いて説明してくれた。
 私は何となく……解ったことにした。現代文の授業をもっとしていれば……。
「あ、それと現実の力って一体何ですか?」
 私はチンプンカンプンの頭で再度、突入した。
「夢の世界は強力だけど、あなたの力と現実の世界も強いようよ。それは、あなたしか出来ないと思うわ。あなたは二度寝が苦手なのはそういうことなの。残念だけどみんなが出来るわけじゃないわ。そして、その私たちが普段生活している現実の世界は、実は強力な力があって、それは車にはねられたら死んでしまったりと、当たり前の力を神の力で生じさせているの。それは、簡単に言うと神の現実の行使力によって私たちは夢の世界から守られているの」
 霧画の重大発言。
 つまり、この世界の現実と言われているものは、神の力でそうなっていて、本当は起こり得ないものだというのだ。私は頭が……どうにかなりそうだった。
「それと、私たちの他にももう一人赤レンガの喫茶店で、コーヒーを飲んだ仲間がいると思うわ。それであなたは、恐らく七番目の人でもある」
「はあ?七番目……。俺たち以外……つまり、霧画さんも含め渡部や呉林たち以外の人もオリジナルコーヒーを飲んだんですか?」
 私はこんがらがる頭で質問をした。
「そうね。私たち以外にもいるわ。そう世界中に。呪術を施されたコーヒー豆は大量にあるの」
「その中で俺が七番目……」
「そうよ。恐らく笹井さんが一番最初にコーヒー豆を貰って、今になるまで長い間温存していたのよ」
 隣の席の霧画は重大なことを落ち着いて話してくれた。けれど、霧画の話はよく解らず。今度も呉林先生にお願いするべく眼差しを向ける。
「簡単に言うと、私と恵ちゃん。そして、姉さんと角田さんたちと、もう一人誰かがいて、あなたがとても危険な七番目のオリジナルコーヒーを飲んだ。そう……世界中の人たちも含めてもあなたが七番目なの」
 呉林は緊張した面持ちで私を見つめながら話してくれている。
「七番目のコーヒーには、危機的な呪術が施されているわ。それは非常に危険な異界の者になってしまうということ。でも、そうはならなかった。あなたはすでに悪夢を変容する力があるのよ。つまりは、あなたは強引にこの夢の世界から起きることができる性質も持った人なの。そして、私たちが普段暮らしている現実の世界というのも不思議な力が在って、私たちが普通に暮らせられるのはその力のお陰。そして、あなたの持つ現実(太陽)の力は夢の世界を変えることが出来るの。簡単にいうと太陽神の加護を受けて助かっているというわけ」
 そこまで話すと呉林はニッコリして、
「気楽に考えましょ。難しいことなのは私にもよく解るから」
「うん」
 まとめると、太陽から力を授けられ、とても危険な異界の者にもなってしまうオリジナルコーヒーを克服した。
 生まれつき夢から起きやすい。
 ただ単に運が良かったのだろうか……。
 ふと、私はサイドミラーを見た。
 そこには、サイドミラーに映る遥か遠くの複数のフルフェイスのライダースーツが、土煙を撒き散らし、猛スピードでこちらに走って来るのが見えた。まるで暴走族の集団のようだ。手にはそれぞれ斧などの凶器を持っていた。
「霧画さん! 危ない! 武器を手にしたバイクの群れが近付いてくる!」
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