第59話

文字数 1,409文字

 私は丁寧に頭を下げた。私も小さい時、同級生の死を体験している。確か何かの病気だったようで、悪いと思うがあまり悲しい気持ちはしなかった。あの時は何歳だったかな……。  
友達もその時はいた。
「ああ」
 浮浪者は遠い方に眼差しを向ける。しばらくすると、視線を戻して、
「君達はこの世界をどう思うかね」
「この世界ですか……」
 私は考えた。
「侵食された現実……?」
「あたしもそう考える」
 安浦も同意した。
 浮浪者はあっという間に空になったサイダーを、名残惜しく近くのゴミ箱に捨てると、
「わしはこの世界を恐らくは虚構だと考える。心或いは精神が見せているのだ。現実でもあるのだが、我々人類は精神を歪められ、その身で見える世界を、その歪んだ精神で見るから、世界が歪んで見えるのだとわしは考える」
 浮浪者はふと湿っぽい顔をして、
「そして、その歪んだ精神で見る夢(虚構)は勿論、恐ろしく偽りの重なりで精神が強引に歪んでしまって、恐ろしい悪夢となる。そこで、死んでしまうと。恐らく現実の世界で、残酷過ぎる死。或いは廃人と言った方がよいか。どちらでもただでは済まない。何故ならそんな体験の中、死んでしまっては……精神が持たないからだ」
「……怖いですねその仮説は。あ、でも、一人の夢……その夢の世界には周りの人たち、つまり、みんなもいますよ」
 浮浪者はにっこりして、
「そうなんだ。例えば全人類が同じく精神をもともと歪ませられているとしたら、それならば、何かで共通した歪んだ虚構の中の夢……普遍的な夢を見ている」
 浮浪者は顎を触り、
「それは一人の夢であるが、全員の共通する夢。その中で、みんなと出会うのだと考える。つまりは、一人ひとりの夢なのだが、みんな、同じ大きな夢(虚構)の中にいるのだ。そのなかで、一人の人間として振る舞い。それと同じくして、夢見ては・・・」
「ちょっと、待って下さい!つまりは……」
 私はかなり考えたが、霧画の話に似通っていることが解っただけだった。
「元々は一人ずつ夢を見ているのだけど、その夢の中でも一人で、でも、夢自体は共通していて……?つまり……?」
 私は混乱した。
「つまり、一人の夢(虚構)なんだけど、全員眠っているから、同じ大きな夢で出会う。ですよね? そしてその中で大きな夢自体が今は悪夢になっている。他の人たちも同じ条件で現実のベットの中にいる……かな?」
 安浦が大学の講義を受けているような対応をしている。……初めて見た。
「そうだ。結論は、みんなと同じ夢。虚構の世界にいる。が、本当は全員一人で寝て普遍的な夢を見ている」
 ディオはゴミ箱からサイダーを取り出し、
「わしは現実の世界では今は眠っている。だが、今はこのサイダーをこの虚構の世界で手で持っている。はてさて、何故持った感触があるか、それは、現実の世界でも持っているからじゃ。わしの実物は眠っていながら、夢遊病患者のようにベットから起き出して、同じ夢遊病のようなコンビニの店員と出会ったり、今は君らと話たり、カップラーメンをコンビニで買ってもらい。明日、食べるんじゃ。つまりは、答えはこの虚構の世界では全員眠っているのじゃが、眠りながら日常生活を送っている」
 私の頭はとても直視できないほどこんがらがった。けれど、不思議と解った感じがする。ここへ来て、小さなテントで苦手な勉強をするはめになるとは……。
「ふんふん」
 安浦って、確か理数系だったはずじゃ……。
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