第62話

文字数 2,053文字

「南米か。戦うしかないか。……仕方ないかな」
 角田が窓辺で呟く。空を移動する巨大な城はぐんぐんと南米へと向かう。私たちの戦いももうすぐ終わりを迎える。
 食事が終ると、みんなそれぞれ固有のスペースを取ってゆっくりしていた。
 ここは、白い城の食事をした巨大な一室である。
 中央の長いテーブル以外で、みんな寛いでいた。
 この白い城は何階かあるようで、それぞれ居住スペースと何かがあるようだ。呉林はその探検に出ようと、デュオと私と霧画を誘う。
「デュオさん。遅くなったけど、あなたの知識と私たち姉妹の知識を突き合わせましょう」
「解った。ここにサイダーはあるかな」
 デュオは余程サイダーが好きな様子だ。私は霧画の話を聞きたかったので賛同する。
 4人はこの建物の外へロココ調のドアを開け、歩きだす。
「まず、私から話すわ。この世界とは(今の夢の世界ではなく)違う世界にいたのよ。その話からしたほうがいいわ」
 霧画が私たちに話してきた。
 4人は回廊を渡る。
「そこは夢の世界?それとも現実の世界?」
 呉林は裏表の疑問を呟く。
「大きな夢……虚構の世界じゃからどっちでもいい」
 デュオが呟いた。
「私はさっきも言ったけど誰もいない世界にいたのよ。目覚めたわけじゃなくて、あの時、赤羽さんたちが消えちゃって、私だけがポツンといたのね。それから、自宅へと戻ったのだけど、ご存知、真理もいなくて。それどころかコンビニの人や隣人もいなかったのよ。仕方なく私は勉強しながら六週間暮らしていたわ」
「六週間?俺たちの感覚だと。かなり短かったけれど」
 私は時間の食い違いを指摘した。
「そうじゃろう。夢の世界は浦島太郎やSFの宇宙旅行と同じく時間の流れが違うのじゃろう」
 デュオが言う。
「さっき。デュオさんは……」
 呉林の声に、
「あだ名じゃし、デュオでいいぞ」
 デュオは色が変色した赤いジャケットのポケットから飴を取り出し、口に放り込む。
「デュオ。さっきお姉さんが夢のそのまた夢にいたと言ったわよね?どういうこと?」
 デュオはボサボサ頭を掻いて、
「皆それぞれ寝ているのじゃが、誰でも夢と言う虚構の世界にいる。誰も気づかずに寝たままで日常生活を送っているのじゃ。それは狂気に近く。また、深い体験となる。わしはそう考えるのじゃ」
「え?私たちは今ここにいて、何も不思議なことなんてないわよ」
 呉林が見るからに動揺した。
 私はこの世界の人が寝ていてみんな夢遊病患者のように立ち居振る舞い。大きな夢を見ているという仮説を呉林姉妹に話した。
「えーと」
 呉林が珍しく混乱する。
 目の前に大きい階段が現れた。ロココ式の階段だった。4人は下へと降りる。
 霧画が解り易く呉林に話し、何とか呉林は立ち直った。
「それでは何故、今の人類は大きな夢を見ているのかしら」
 霧画もデュオの仮説に感心している。それは素晴らしい考える力からくるものであろう。
 私は呉林姉妹にデュオの言う空気の話をした。
「凄い。私と姉さんでもそこまで考えなかったわ」
「ほんとよね。凄いわ。場所が南米なら有り得るわ。その仮説が当たっていればこの白い城は南米に行くことが直観だけでなく確定するもの」
 あの呉林姉妹が驚いている。私は何やら予め知っているための高揚感が出てきた。
「じゃあ。姉さんは夢を見ていた。つまり、私たちが大きな夢の世界に行ったのではなくて、大きな夢の世界へと深く眠ったのは姉さんの方?」
 呉林が思考をきりりと絞る。
「そうとは言えない。わしらの方が今でも大きな夢を見ているのかも……。しかし、いずれにしろ夢のまた夢でも架空のことじゃ。現実なんて最初の一度きりで、それからは全て夢の世界かも知れない」
「現実を守る神の力が最初から無効化されるなんて、恐ろしいとしか思えなくなるわ」
 霧画が唸る。
「現実を神が与えてくれているとして、その力を破壊しようとはシャーマンはかなり残酷じゃな。しかし、現実も残酷じゃ。どちらも残酷過ぎる。……死ぬほど空腹になると餓死をするのと同じじゃ」
 デュオの言葉に霧画が目を見開き、
「でも、夢の世界の方が毎日、何百万、何千万と生命が死んでいるの。夢の中で生命を失うという夢はありふれているから。それが、現実になると人類は完全に死滅するわ」
「夢の世界でも現実の世界でも良いことがある。両者を天秤に掛けると、どちらが得か一目で解るはずじゃ」
「いいえ、夢は危険なものよ」
「ちょっと、姉さん! それからデュオも! ……困ったわね」
 デュオと霧画の討論は尽きることがないと判断した呉林は仲裁に入った。
 デュオの考えは余りにも深さを探求するような考え方だ。まるで、言語や論理の梅を泳いでいるみたいだった。
「あ、でも夢のそのまた夢では、どうして五感があるの。物体に触ったり、匂いを嗅いだり、怪我をしたり」
 呉林は今度サイダーを買ってあげると言いながら疑問を呈した。
「恐らく」
 デュオは私の方を見た。私はサイダーと弁当の話を呉林姉妹に教えた。
「どうじゃ、お嬢さんたち……わしの仮説は?」
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