第71話

文字数 1,088文字

「では、赤羽くん。きみは戦闘の主力じゃ。きみは一人で先頭に立ってくれ。そして、その脇でわしらが戦う。丁度、Vの字の様な感じかな? 敵も赤羽くんの力があるから、逆さになったVの字となる。この意味が解るじゃろう。きみがこの戦の主役なのじゃ。きみが寝てしまったら、みんな負ける」
 私は自信を持ってこう答える。
「任せてくれ。けど、何か罠を作ったんだよな。大丈夫なのか」
 デュオはにっこりして、
「大丈夫じゃ。この罠はきみを守るためにあって、それだけだ。味方は引っかからないようになっている」
 それぞれの代表の数人の戦士が、デュオと私を囲む。二人の会話はみんな聞き逃すまいとしている。それもそのはず、この戦の戦局を左右することだからだ。
 角田と渡部も耳を静かに傾けている。
 角田と渡部にとってはデュオは師匠的な存在なのだろう。
「敵襲!」
「敵襲!」
「敵襲! 敵襲!」
 斥候に出ていた村の若者たちが数人。前方から走ってくる。穴掘り以外の者は斥候だったようだ。
「本当に戦わなきゃ!」
 渡部が剣を振り上げた。
「よーし! 頑張るぞ! 相手は黒い霧。殺人じゃない!」
 角田は大剣を握りながら、絶叫する。
「いよいよだな! わしも戦うぞ!」
 デュオはボロ衣のシャツの懐から、白い城から借りた一丁のピストルを取り出し、穴掘りをしていた村人の一人からサーベルを手渡された。
 村の人。ジュドルや蒼穹の戦士たちは、2千3百名もの大軍で一斉に戦いやすい、私を中心にしたVの陣を敷いた。
 これから、本当の戦を体験しなければならない。しかし、リアルだが夢の事だ。
「デュオ。どこにトラップがあるのか。俺たちは知らない!」
「案ずるな。黒い霧しか引っかからん。赤羽くんはそこを絶対動くな!」
 前方から見る見る間に、真っ黒な黒い霧の集団が赤い舌を出して、まるで黒い気体をまき散らした様に目前に広がりだした。その数は広大な森の様……。
「赤羽さん! 死なないで……。かかってこいやー! コラー!」
 渡部が脇から巨大な黒い霧へと突っ込んで行く。
「赤羽くん! 死ぬなよ!」
 角田は雄叫びを挙げ、猪武者よろしく巨大な黒い霧に吸い込まれた。
「今こそ、この悪夢に終止符を!」
 デュオもピストルを撃ちまくり、巨大な黒い霧へと消えた。
 細い棒を持ったジュドルを先頭に、蒼穹の戦士たちは私を置いてVの字型に全速力で走り出す。ただし、私のいたところの正面は、扇型でかなりの間隔があるのだが、誰も近づかない。
 私は恐怖を跳ね除け正面の黒い霧の大軍に片手を向け続ける。数分で数百体もの大量の血の雨が降りしきり、黒い霧と私との間隔がみるみるとあいてきた。
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