第24話 ゴルフ場

文字数 1,651文字

7月28日 
 午前中は、滅多に乗らない自転車で何軒かの整形外科や外科に顔をだし、治療をしてもらいたかったのだが、外傷どころか骨にも異常がなくて相手にされなかった。医者はみな厳つい顔で、仮病と診断してきたのだ。
 けれども、痛みは本物だからたまったものではない。私のその日の気分は、一日もはやく治ってほしくて常に陰鬱だった。
 午後の1時になってから、直っていた携帯が鳴った。
「赤羽さん。左肩の怪我はどう?」
 物事をいつもはっきり言う呉林だったが、とても心配そうな声色をしている、私は一瞬頬が赤くなるが、痛みで歪む。
「最悪だ。午前中は医者にあちこち行ったんだが、外傷も骨の異常も何もなくて……。それでいて、痛みは常に酷い状態だったよ。今でも痛いが、仮病と診断されてとても困っているよ。それより、角田さんと渡辺君は?」
 私は苦虫を噛み潰した顔をして訴えた。
「二人は大丈夫みたい。そう、感じる。でも、やっぱり……。」
 呉林は心配しながら、徐々に真面目な声色になった。
「で、どうやって治すんだ?」
 呉林は慎重に言葉を選ぶように、
「解らないわ……。でも、何か考えるから二時半にイースト・ジャイアントで落ち合いましょうよ」
 私は諦め半分の気持ちを声にだして、
「解った」
 午後2時30分。私は呉林と呉林の友人の安浦に会うために牛久駅の近くの「イースト・ジャイアント」に行く。昼食は摂らなかった。
 電車の中では、この前の体験のためか極度に緊張していたが、牛久の改札口を通る頃に
は大分落着きを取り戻し、腹も空いてきたので、痛む肩を放っておいて今日は何を注文しようかなどと呑気に考えるようになっていた。
 コンビニ弁当もいいが、たまには外食?も良い。
 行き交う人々を見ると、どうしてもこんな体験をしている自分が奇異で不幸のように感じてしまう。不幸は昔から何の予告なく襲ってくるものだ。だが、呉林がいる。また彼女と出会える。私は今まで26年間も恋をしたことは、一度中学生の時だけしかしていない。そんな私が……今は呉林に出会うことを楽しみにウキウキしている。積極的に女性と話せるようになってもいるし、貴重な体験だ。本当に恋は失恋してでもした方が良いだ。
 渡部や角田は今、どうしているのだろう。こんな体験を共有できる仲間が増えて、とても心強くなると同時に、彼らのことを気遣うようになってきた。
 ちょっとお洒落をして、ネズミ色のジーンズとラクダ色のワイシャツといったラフな格好で店に入った。
 髪型を変えたりお洒落をしたりと私も変わったかな?
 恋をすると自分の中の何かは変わるのだろうか?
店内には客は疎らで、コーヒーや紅茶だけを注文する客はごく少数であった。その中央に私は呉林と安浦を見つけた。
「赤羽さん。こっちこっち」
 ブルーのノースリーブ、黒いジーンズを着た呉林が手招きする。二人はもう冷たい紅茶を注文していた。こんな体験を連続して、コーヒーには少し抵抗が出てきたのだろう。私も冷たい紅茶を頼んだ。
「ご主人様。左肩は大丈夫ですか?」
 安浦は夢の時のことを引っ張ってきた?
「ああ。でも、そのご主人様って、やめてほしいが」
「……。ご主人様。左肩の治療法を考えたんですけど」
 安浦はさらっと回避して、自分のピンク色のフリルの付いたシャツの肩のところを指差した。その下は同じくフリルの付いたピンクのスカートだ。それと、やはり私のことをご主人様と呼んだ。
 確かにそう言ってくれる安浦はとても可愛らしくて、嬉しいが……。
「そうよ。今さっきだけど、恵ちゃんが考えたの。かなり治りそうな方法」
 二人は私に向かって真剣な顔付きになった。
 それは、もう一度、夢の世界に入れば治るのではないかということだった。
その直後、派手な格好のウェイトレスから、紅茶が運ばれてきた。それを手に取ると、私の意識は眩暈がするほど急速に現実の空間から遠のき、「あっ」と思うと私は意識を手放した……。

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