第22話

文字数 1,522文字

 私は急激に恐怖で体が硬化し、口をパクパクしながらテレビ頭の方へ指をさし向けていた。呉林も気づいた。
「ひっ、蘇ってる!」
 私は震える唇で悲鳴を上げたが、呉林がいち早くライフルを構え一発撃つ。パーンと凄い破裂音が辺りに響く。
 渡部と角田はテレビ頭の方も見ないですぐに逃げ出した。
 突進するテレビ頭は一瞬よろけ。倒れた。だが、すぐに起き上がり、その巨体が更にスピードを上げて迫りだした。
「駄目だ……逃げよう……」
 やっとのことで声を振り絞った私は、角田と渡部の方へ呉林の手を取り脱皮のごとくに逃げ出した。
 角田と渡部が遠くで散り散りに逃げようとした瞬間。
「大丈夫よ! ここへ入りましょう!」
 呉林が叫んだ。
 私たちの走る通路の少し先の作業場の扉を呉林が勢いよく開け放った。血相変えた呉林が角田たちに大きく手招きをした。
「角田さんたち! こっちよ!」
 限界を超える恐怖と混乱によって、私は無理矢理ライフルを片手で構えだしていた。
「赤羽さん! そのライフルは弾切れなの! 早くこっちへ逃げて!」
 私はそれを聞いて更に真っ青になり、作業場へと力の入らない足で向かった。
「こっちへ逃げましょう! 恵ちゃんもいるわ!」
 必死で私たちはその作業場へと、そう叫んだ呉林の後を追った。
 何故か作業場の扉の中から安浦の緊迫した顔も見えた。
 テレビ頭が物凄いスピードで走って来る。砂嵐の音が素早く近づいてきた。
 作業場は裸電球が所狭しとぶら下がり、その明かりで部屋が広く感じられた。卓上には複数のミシンやプレス機が置いてあり、一番奥にはスチール製の扉の倉庫があった。広い倉庫には棚に置いてある複数のミシンやダンボール箱が山積みされ、色々な用途のある金属製の棒や頑丈なロープなどがある。
 呉林は私たちを倉庫へと誘導する。
 テレビ頭が作業場の扉を派手に破壊した。
「みんな! もうすぐよ! 頑張って!」
 呉林の意味の解らない合図を受けて、みんなはただただ呼吸を乱して、闇雲に奥行きのある倉庫の中へと体を押し込もうとする。その拍子にダンボール箱が潰れ、金属製の棒がむき出した。5人が非難するとスチール製のドアを呉林が閉める。
「赤羽さん大丈夫よ。私、恵ちゃんが心配で戦う場所をここにしたの。直観で作業場に来たのよ。でも、これからよ」
 血の気が引いているが、何かの自信を持っている顔の呉林が私の怪我のことを心配してくれている。
 どうやら、安浦もこの世界へ来ていたようだ。
 けれど、冷静に考えれば倉庫のスチール製のドアは薄く脆い。大き目のハンマーで力一杯殴れば、すぐにぐちゃぐちゃになってしまう。
「これから、どうするんですか呉林さん?」
 渡部がダンボール箱をどかして、震える唇で隣の呉林の顔色を見つめた。その隣には真っ青な顔の安浦が無言で佇んでいた。
「少し待って……」 
 天井が低い。そして、広い倉庫には至る所にダンボール箱が山積みされ、息苦しい。鬱屈しそうな呼吸が所々に響く。
「もうすぐよ」
 呉林は低く呟く。
 体格のいいテレビ頭の走る音がドア越しに聞こえてきた。テレビ頭のハンマーがスチー
ル製のドアを打った。
「ガーン!」
 という大音響と同時に、ドアの上部がひしゃげた。
「きゃあ!」
 安浦が悲鳴を上げた。
 テレビ頭はやはり、ひしゃげたスチール製の扉から、こちらに無理矢理に這い出してきた。
 不気味な砂嵐を写したテレビが襲いかかる。
「この!」
 角田が砂嵐のテレビを右足で、思いっきり蹴飛ばした。だが、テレビ頭が派手に後ろに倒れたが、すぐに不気味に起き上がり始め角田の左足を握った。
「角田さん!」
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