第20話

文字数 1,234文字

 私は怪我と出血と疲れでフラフラとしていた。とても話す気力がない。黙々と煙を吐いていた。
 間隔を置いた煙草を3本吸い終わる頃には、やっと医務室に辿り着いた。肩の出血がジャンパーに大きな染みをつくりそうだ。怪我の痛みはあるが、それより出血による精神的なものの方が大きい。
医務室の木製のドアを開けると、中は建物と同じく殺風景である。中央に幾つもの薬品棚と1つの診察室があり、その隣に簡易ベットが複数あった。
 私はライフルを床に投げ出して、簡易ベットの一つに呉林によって寝かされ上着を脱がされる。怪我はかなり酷く、左肩の部分が青黒くなっていて、皮膚から血が滲み出ていた。骨も折れていそうだ。
「こりゃひどい」
私の肩を見つめた角田は顔をしかめ、私の肩に薬品棚から持ってきた包帯を巻こうとした。
「ちょっと待って!」
 そういうと呉林は素早く消毒薬とガーゼを持ってきた。
「念のためよ。現実の世界で化膿したら大変。こんな世界だもの何が起こっても不思議じゃないわ」
 呉林はかなりいろいろと慎重になってくれている。渡部は診察室の奥の水道から持ってきたコップに水を入れると、簡易ベットに横になっている私に差し出してくれた。
「…………」
「大変な怪我をしましたね。痛みは? こんな場所だから救急車というわけにはいかないですよね」
 渡部の心配そうな顔へ、私はかなり酷い痛みを隠していた。
「大丈夫……だ」
 そういえば、私は昔から仕事以外であまり人と関係を今まで持たなかったなと思った。寂しい人生だったのだろうか……。
しばらくすると、私は夕食も夜食をまだ摂っていなかった。緊張が解けてきたせいか、腹の虫が鳴った。
「お腹が空いたの。ここに食べ物ってあるかしら?」
 呉林は私の左肩を拭いていた消毒薬を湿らせたガーゼを置いて俯いた。不思議な力を使うかのようだ。
すると、
「そういえば、囚人房の奥に調理室があるって、今解ったわ。そこなら何か食べ物があるかもしれないわね」
 呉林はそういうと、包帯を私に巻いてくれた。うまい巻き方のようで、左肩の痛みが半減した。左肩は消毒薬のせいか少し冷たくなってきて気持ちがいい。
「俺も腹が減ってきたな」
「私も。走り回ったからかしら」
「僕も」
 みんな腹が空いていたようだ。
 …………
角田は何気なく医務室の窓から外を眺めた。外は雨が降っていた。
「こんな変な場所にも雨が降るんだな。腹も減るし……」
 角田は溜め息交じりに呟く。
「あの……。蛇口から水がでるので、恐らくガスも出ると思います。みなさんここで食事にしましょう。角田さん何か食べ物を持ってきましょうよ。赤羽さんと呉林さんはここで休んでいて下さい」
 親切な渡部は気遣ってくれて、そういうと角田を連れて調理室を探そうとした。
「いい。調理室はあなたたち二人がいた囚人房の奥よ。丁字路の左側の奥。私たちはここで待っているわ」
「解りました」
 渡部は笑顔で手を振った。

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