第74話 エピローグ
文字数 2,362文字
ここは現実の世界だ。
谷川さんは定年退職をして、南米へと向かうために必死に頑張っていた私を正社員へと推薦してくれた。
みんなは今、どうしているのだろう。
日本語の勉強をしたジュドルから手紙が来た。二グレド族の村にも朝がきたようだ。
あの後、二グレド族のバリエ率いるシャーマンたちの力も借りて、世界の現実を少しずつ取り戻していった。現実はパズルのピースのように狭い空間が幾つもある感じだった。それを一つずつウロボロスの力で繋ぎ合せるという作業をみんなとやった。
まだ16時か……。
中村・上村はいつもと変わる所が無く。上村はやっぱり禿頭。中村はメタボ。
仕事中の雑談はなかなかに面白く。つい正社員になっても、話に割って入ってしまう。
「それでさー。この間の奴。休憩時間に煙草を吸いたいからとトイレへ行かなかったんだぜ。それで、仕事中に便意を催したのか、そわそわしだしてトイレへ行こうとしているんだぜ」
中村が上村と話している。
「仕事中だってのにさ。一発、ケツを蹴ったらどうなるか。やってみたかったぜ。それでさー」
私はウロボロスの蛇で現実を修復している時から、この世界に漠然とした疑問をもち始めてもいた。
二階へと上がる。
私は二階の管理室へと入り、パソコンと睨めっこする日を今でも享受している。
定時まで後、一時間。真理はどうしているのかな。あの悪夢から正確には1年6カ月。まだ結婚をしていないが、同居をしていた。真理は、何かを警戒しているのだろう。
真理との同居は、感慨深いのも事実だったが。
微睡みのような感覚から頭を強く振っても。そこには鈍い現実認識があった。
バリエから聞いた話だと、今でもウロボロスの蛇は目を開けているそうだ。
二グレド族の人々も悪夢への恐れを抱いたままだ。
ルゥ―ダーとカルダはあの時。
確かに死んだはず……。
カルダとルゥ―ダーは、覚醒者を生贄にするべく。見境なしに生贄を捧げていくうちに、正気を失い。支配欲に蝕まれた。
そうバリエが言っていたように思う。
当然、狂気にも支配されたカルダにとって、ルゥ―ダーは、ただの従者でしかなかったのだろう。
例え世界をカルダが征服したとしても、ルゥーダーはただの従者にすぎない。ルゥ―ダーにとって、それは大きな足かせでもあったのだろう。
そして、恐らくウロボロスの蛇は尾を呑み込み終わっても、今となっては蛇は死ぬことは無かったのではないかと思えてならない……。
ただ単の一つの……そして、たった一人の見た支配欲は世界を滅ぼす時もある。と、ディオが別れ際に言っていた。
仕事を終えて家に帰ると、真理が3枚の手紙を見せてくれた。
「恵ちゃんたちからよ。それから……角田さんと渡部くんも上手くやってるみたい……」
「ああ……」
それぞれ簡潔な複数の手紙を恐る恐る開ける。
まずは安浦から開ける。
「ご主人様。傷付いたあたしは旅にでます。行先は聞かないで下さい。きっとあたしの第二のご主人様を見つけてきます。……外国なんてどうかしら?
かっこいい人がいいな。真理ちゃん。お幸せにね……。それから、ウロボロスの力で現実を修復するのに1年も掛かったんですね。あたしはお料理に専念していて時間の流れなんて解らなかったんです。あたし、コックになれるかも。……お幸せに」
渡部?
「赤羽さん。今はそば屋に弟子入りしています。それから僕の歌のCDが来年に出ます。良かったら聞いてみて下さい。ちゃんと歌えたかな?それから今、大学に好きな人を探しています。僕も赤羽さんと真理さんのような暖かい家庭を築きたいんで……。南米では美人の人はみんな既婚者だし、バリエは除いてシャーマンたちはお婆ちゃんばっかりだし……。南米では大変でしたね。もう死んじゃうと何度も思っていました。それでは体に気を付けて……」
角田 ?
「赤羽くん。実は俺、美人の姉さんと結婚をしたんだ。凄いだろ。憧れが現実になったんだ。今度、二人で会いに行くよ。それと、気が向いたら俺の店に来てくれ。住所は……。小さいスーパーだが安さでは誰にもどんな店にも負けない。そう赤羽くんのように……。あ、とスーパーの名前は清彦。俺の名だ。ウロボロスで現実を修復するときは大変だったな。俺は仕事があるから、現実の時間の流れにピリピリしてまともに修復ができなかったんじゃないかと……後で思ってヒヤヒヤしていた。それじゃあバイバイ……。」
「お姉さんも旅に出ているのよね。後、デュオはどうしたのかしら」
長めのソフトソバージュを後ろで結った真理が微笑む。
「前に家に来ないかと何度か言ったんだがね……真理……いいのか? 本当にこれで」
私は不可解さを覚えた。渡部と角田はウロボロスの蛇で現実を修復する時……。確かにいなかったはずだ……。
真理は世界を確かに救ったのだし、不思議だけど、この世界のことは今は後回しにしようと言っている。決して私だけではないはずだ。漠然とした不安を感じているのは。
南米から日本に戻ると、世界中の人たちはやはり何週間も眠っていたままだった。その中には、死亡者も何百万人もでていて、改めて恐ろしい体験をしたんだなと、震えあがった。
死んだ人は何カ月間も寝たままになり、ついに起きることがなかった。
「ここが、現実か定かではないし、ウロボロスの蛇は尾を呑み込んでサークルを描いているから、この漠然とした不安を抱いてしまう。夢か現実かわからない世界ではなくて、本当の現実の世界では必ず生きているはずよ。生存不明な渡部くんと角田さんたちも、きっとそうなのよ」
呉林は奇妙なことを言ってウインクをした。
ここが、どこなのかはわからない。生存不明な渡部と角田や死んだ人たちには申し訳ないが。
でも、私たちは世界を救った……。
谷川さんは定年退職をして、南米へと向かうために必死に頑張っていた私を正社員へと推薦してくれた。
みんなは今、どうしているのだろう。
日本語の勉強をしたジュドルから手紙が来た。二グレド族の村にも朝がきたようだ。
あの後、二グレド族のバリエ率いるシャーマンたちの力も借りて、世界の現実を少しずつ取り戻していった。現実はパズルのピースのように狭い空間が幾つもある感じだった。それを一つずつウロボロスの力で繋ぎ合せるという作業をみんなとやった。
まだ16時か……。
中村・上村はいつもと変わる所が無く。上村はやっぱり禿頭。中村はメタボ。
仕事中の雑談はなかなかに面白く。つい正社員になっても、話に割って入ってしまう。
「それでさー。この間の奴。休憩時間に煙草を吸いたいからとトイレへ行かなかったんだぜ。それで、仕事中に便意を催したのか、そわそわしだしてトイレへ行こうとしているんだぜ」
中村が上村と話している。
「仕事中だってのにさ。一発、ケツを蹴ったらどうなるか。やってみたかったぜ。それでさー」
私はウロボロスの蛇で現実を修復している時から、この世界に漠然とした疑問をもち始めてもいた。
二階へと上がる。
私は二階の管理室へと入り、パソコンと睨めっこする日を今でも享受している。
定時まで後、一時間。真理はどうしているのかな。あの悪夢から正確には1年6カ月。まだ結婚をしていないが、同居をしていた。真理は、何かを警戒しているのだろう。
真理との同居は、感慨深いのも事実だったが。
微睡みのような感覚から頭を強く振っても。そこには鈍い現実認識があった。
バリエから聞いた話だと、今でもウロボロスの蛇は目を開けているそうだ。
二グレド族の人々も悪夢への恐れを抱いたままだ。
ルゥ―ダーとカルダはあの時。
確かに死んだはず……。
カルダとルゥ―ダーは、覚醒者を生贄にするべく。見境なしに生贄を捧げていくうちに、正気を失い。支配欲に蝕まれた。
そうバリエが言っていたように思う。
当然、狂気にも支配されたカルダにとって、ルゥ―ダーは、ただの従者でしかなかったのだろう。
例え世界をカルダが征服したとしても、ルゥーダーはただの従者にすぎない。ルゥ―ダーにとって、それは大きな足かせでもあったのだろう。
そして、恐らくウロボロスの蛇は尾を呑み込み終わっても、今となっては蛇は死ぬことは無かったのではないかと思えてならない……。
ただ単の一つの……そして、たった一人の見た支配欲は世界を滅ぼす時もある。と、ディオが別れ際に言っていた。
仕事を終えて家に帰ると、真理が3枚の手紙を見せてくれた。
「恵ちゃんたちからよ。それから……角田さんと渡部くんも上手くやってるみたい……」
「ああ……」
それぞれ簡潔な複数の手紙を恐る恐る開ける。
まずは安浦から開ける。
「ご主人様。傷付いたあたしは旅にでます。行先は聞かないで下さい。きっとあたしの第二のご主人様を見つけてきます。……外国なんてどうかしら?
かっこいい人がいいな。真理ちゃん。お幸せにね……。それから、ウロボロスの力で現実を修復するのに1年も掛かったんですね。あたしはお料理に専念していて時間の流れなんて解らなかったんです。あたし、コックになれるかも。……お幸せに」
渡部?
「赤羽さん。今はそば屋に弟子入りしています。それから僕の歌のCDが来年に出ます。良かったら聞いてみて下さい。ちゃんと歌えたかな?それから今、大学に好きな人を探しています。僕も赤羽さんと真理さんのような暖かい家庭を築きたいんで……。南米では美人の人はみんな既婚者だし、バリエは除いてシャーマンたちはお婆ちゃんばっかりだし……。南米では大変でしたね。もう死んじゃうと何度も思っていました。それでは体に気を付けて……」
角田 ?
「赤羽くん。実は俺、美人の姉さんと結婚をしたんだ。凄いだろ。憧れが現実になったんだ。今度、二人で会いに行くよ。それと、気が向いたら俺の店に来てくれ。住所は……。小さいスーパーだが安さでは誰にもどんな店にも負けない。そう赤羽くんのように……。あ、とスーパーの名前は清彦。俺の名だ。ウロボロスで現実を修復するときは大変だったな。俺は仕事があるから、現実の時間の流れにピリピリしてまともに修復ができなかったんじゃないかと……後で思ってヒヤヒヤしていた。それじゃあバイバイ……。」
「お姉さんも旅に出ているのよね。後、デュオはどうしたのかしら」
長めのソフトソバージュを後ろで結った真理が微笑む。
「前に家に来ないかと何度か言ったんだがね……真理……いいのか? 本当にこれで」
私は不可解さを覚えた。渡部と角田はウロボロスの蛇で現実を修復する時……。確かにいなかったはずだ……。
真理は世界を確かに救ったのだし、不思議だけど、この世界のことは今は後回しにしようと言っている。決して私だけではないはずだ。漠然とした不安を感じているのは。
南米から日本に戻ると、世界中の人たちはやはり何週間も眠っていたままだった。その中には、死亡者も何百万人もでていて、改めて恐ろしい体験をしたんだなと、震えあがった。
死んだ人は何カ月間も寝たままになり、ついに起きることがなかった。
「ここが、現実か定かではないし、ウロボロスの蛇は尾を呑み込んでサークルを描いているから、この漠然とした不安を抱いてしまう。夢か現実かわからない世界ではなくて、本当の現実の世界では必ず生きているはずよ。生存不明な渡部くんと角田さんたちも、きっとそうなのよ」
呉林は奇妙なことを言ってウインクをした。
ここが、どこなのかはわからない。生存不明な渡部と角田や死んだ人たちには申し訳ないが。
でも、私たちは世界を救った……。