第19話

文字数 1,348文字

 と、最年少で震える声。私の怪我とボロボロになった鉄格子を見て、その恐ろしさと、この場所の不可解さに混乱しているのだろう。
端整のとれた顔をしていてさらさらとした茶髪をしている。髪は長め。背は長身で、私と同じくらいだろう。それと、落ち着いていて控えめな丁寧な人である。
「本当にありがとう君たち。俺は、角田 清彦。スーパーの店長をしていた。42歳だ。それより、早く脱獄しようよ。こんなところにいるのは耐えられないんだ。ここから出られたら俺のスーパーに来てくれ。うん、とサービスするから。あ、毎日してるか。ハハハハハッ」
 こちらはいろいろと微動だにしないようだ。
メガネをかけていて、角刈り頭で、バリバリのビズネスマンのようだ。背は高い方。中
年太りはしていない。そして、肩幅が広い男だ。
「そうね、もう危険はないと思うけど、早めにこの世界から出ないと」
 呉林もさすがにこの広い刑務所を方々に走りすぎて疲れているようだ。ピンとした背筋に力が入らないようだ。
「でも、どうやったら、この変な世界から出られるんだ?」
 私も立っているのがやっとだった。左肩の痛みに耐えながら、早くこの異常なところから、元の世界へと戻り、病院へ行って、二度とこういった体験をしたくなかった。
「それより、この怪我はもとの世界に戻って病院へ行くと治るのかな」
 私は奇妙な疑問を呉林に尋ねた。
「それが……解らないのよ」
呉林は残念がった顔をして、私の左肩を見つめる。
「あの包帯か何かを探してみては。酷い怪我だし、それにあの化け物は?」
 渡部が心配してくれていた。勿論、角田もだった。昔から友達もいない私の心は何故か暖かさが心に染み込み親近感が満ちてきた。
「赤羽さんが壊したわ。安心して。もう危険はないと思うわ」
 呉林は包帯を探そうと囚人房から出る。
「痛そうだな、脱獄する前に治療しないとな。ここが刑務所なら医務室ぐらいあるさ」
 角田も私を気遣いながら囚人房から出た。
「そうね。あ、どこかに医務室があるわ。そう感じるの。そこへ向かいましょう」
 呉林は細い足で先頭に立ち、どこともなく歩き出した。その後ろを私が気力を振り絞ってふらふらと歩いた。角田と渡部はしんがりで、この世界が本当に夢の世界なのかと話し合っていた。
 私はライフルを肩に抱え、ジャンパーのポケットから煙草を取り出し火をつけた。
 4人は薄暗い通路を歩き医務室を探した。
「ここは本当に夢の世界なんですか?」
 渡部は角田と話しているだけでは物足りず呉林に尋ねてきた。その顔は非日常な体験をする時の戦慄と混乱を抱えていた。
「多分そうよ、私の推測だけどね」
「まるで、映画や小説の世界ですね。もし出られなかったら……」
「大変なことになるわ。何とかしてここから出ないと」
「ええ!」
 渡部は素っ頓狂な声を出す。
 角田はあまり気にしていないようで、顔は平静そのものとまでは言わないがあまり青くなっていない。
「あ、と、その証拠にみんな寝間着姿や、寝る前の格好をしているでしょ」
 そういうと、呉林は考え込んで、ぶつぶつと言い出した。みんな呉林が敬語を使わないことを気にしないようだ。
 こんな世界でも呉林はいつもサッパリしているのだ。
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