第47話 <未来の約束>

文字数 1,328文字

《Side優》

季節は進み、桜の咲く季節になった。

俺たちはお花見がてら洗足池に出かけ、
商店街を歩いているとモロッコ雑貨店の看板を見つけた。

「この2階! モロッコ雑貨だって!」

お互い顔を見合わせ「入ってみよう!」と、
少々怪しげな階段を登った先は、6畳ほどの店になっていた。

コンパクトな店内にはカラフルなミニチュアタジンの小物入れや
ミントティーグラス 、ゼリージュタイル模様が浮かび上がる
ランタンなど様々なモロッコの雑貨が並べられている。

そしてバブーシュの革と水草のかごの匂い。

マラケシュのスークが一気にフラッシュバックした。

「うわーー、 モロッコだーー!」

奈美が思わず声を上げる。

「いらっしゃいませーー」

と奥の机に座っていた女性が俺たちに声をかけた。

「僕たちも一昨年モロッコに行ったんです!
こんなお店があるなんて!」

と言うと

「そうでしたか!」

と女性の顔がぱっと華やいだ。

「あ、あれゼンモール!」

壁にかかっていた赤いボーダー柄のラグを指差し俺が言うと

「お詳しいですね!」

と女性が反応した。

「うちにも小さいのがあるんです。
モロッコに行った時に買って。
でもあのゼンモールすごいかっこいい!」

「あれはビンテージのゼンモールなんです。
販売用に作られたものじゃなくて、
モロッコのご家庭で結婚の時とか何かの節目で作ったものだから、
デザインも凝って素敵なものが多いんですよ」

確かに俺の家のゼンモールより、
色使いや模様が洗練されている。

「ちなみにこれはいくらですか?」

俺が尋ねると

「5万円ですね」

と女性は答えた。

「5万かぁ。 高いなぁ……」

俺が躊躇していると、

「そうですね……でもモロッコの織子さんの手間を考えると
このくらいになっちゃうんです」

と女性は言い、

「ですよね……」

と、俺はしばし考え、

「わかりました!
このラグが売れる前にお金貯めてまた来ます!」

と言った。

「はい! お待ちしてます!」

女性は笑顔で答えた。

なんだかんだその店で30分くらい
三人はモロッコの話に花を咲かせた。

やはり俺らはモロッコが好きなんだと思った。

雑貨屋を出て、桜の名所の洗足池公園に着くと、
散り際の桜の花びらがはらはらと舞ってとてもきれいだった。

水面には春の日差しがキラキラと揺れている。

池に向かったベンチに二人腰を下ろし、

「面白いお店だったね」

と奈美が言った。

「うん、長々と話し込んじゃったけど
迷惑じゃなかったかな?」

と俺は苦笑し、

「また行きたいね」

と言葉を続けた。

「うん、ゼンモール買えるようにお金貯めないと!」

奈美は笑って言った。

「あのお店もそうだけど、モロッコにもな」

「うん! モロッコも絶対もう一回行きたい!」

「次はハネムーンでね」

「え?」

こいつはまたすっとぼけた顔しやがって。

「ん?」

ジロリと奈美の顔を見る。

「えへへ……」

「えへへじゃねぇだろ!
行くの? 行かないの!?」

「行く」

「これ、一応プロポーズだからな!
一年後か二年後かわかんねぇけど、またモロッコ行こうな」

「えへへ……」

「だからえへへじゃねぇだろ!」

そして俺は体を奈美の方に向き直り、真面目な顔で言った。

「奈美、俺と結婚して下さい」

「はい」

その時俺らを祝福するかのように、
風が吹いて桜の花びらが二人の周りを取り囲んだ。


明日最終話です♡

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