第40話 <熱い頬と暖かい背中>

文字数 1,218文字

《Side奈美》

優はしばらく黙ったまま固まってしまった。

「優? えっと大丈夫??」

目の前で何度か手を振る。

「大丈夫」

あ、喋った。

「ごめん、また唐突で」

私は恐縮して言った。

「ほんとだよ」

ジロッとこちらを睨む。

「どうすんだよ」

「どうしよう……」

二人黙り込んでしまった。

どれだけ時間が過ぎただろうか……お互い何も話さず、
テレビの音だけが響く。

くだらない深夜放送では、
お笑いタレントがどうでもいい話をしていた。

「あ、そう言えば俺なんも食ってねぇんだ。 
なんか食っていい?」

「どうぞ」

というと、優は立ち上がりキッチンの方へ向かった。

「俺としては奈美のその気持ちは嬉しい」

キッチンに立ったまま優は言った。

「できれば付き合いたいと思う。 奈美は?」

私はふうとひとつため息をついて

「私もできれば付き合いたいと思ってる」

と答えた。

電気ポットのお湯が湧き上がる音がしたが、
優はカップ麺の粉末スープの袋を破る手を止めた。

そしてまたこちらに戻ってきて、私の隣に座った。

「いいの?」

長いまつげが目の前に迫っている。

「うん」

と頷いた。

優の手が私の顔に伸びて来て、優の顔が近づいて来た。

「ちょ! ちょっと待って!!」

その言葉を聞いて優は近づくのを止めた。

「私、一応まだ悟史と付き合ってる状態なのね。
で、何となくそういうの、
ちゃんとしてからにしたいっていうか……」

あわあわと説明をすると

「まじめか!」

と呆れた様子で優は言い

「わかったよ」

と離れた。

「おあずけされた分、次回返してもらうから!」

そう言って笑いながらキッチンに戻った。

その後は「モロッコの写真見る?」とパソコンを開いて
写真を見ながらいろいろな話をした。

「あ? これってどこ?」

「アガディール。 セレブのリゾートって感じの町」

「あ、サハラで私に会う前に行った所?」

「そう」

「あ、これモハメッドだ!」

「奈美が一人でランチしてる時に、
ガイドが集まる場所にまぜてもらった時の」

「えー! 私の知らない所でそんな交流してたの!?」

「うん。 今でもメール時々してるよ。 あんまり返事こないけど」

「何それ!
私何回かメールしたけど一度も返事来なかったよ!
ひどい!!」

モハメッド、次に会ったら文句を言ってやろう。

そうこうしているうちに空が明るくなり、
始発の電車が走る時間になった。

「そろそろ帰るわ。
今日も仕事だし、シャワー浴びて少し寝て会社に行かなきゃ」

私が言うと、

「わかった。 駅まで送るよ」

と優も立ち上がった。

玄関で靴を履いて、
ドアを開けようとした時に優が後ろから私を抱きしめた。

「ハグぐらいいいだろ? ずっと我慢してたんだから」

「うん」

背中に優の体温を感じた。

それから駅までふたり指をからめて歩いた。

「大丈夫か? 円城寺さんにちゃんと言えるか?」

「大丈夫。 怖いけど」

心配そうに優は私の顔を見た。

「何かを得たかったら、戦わないといけない時はあるもんね」

無理やり笑顔を作り私が言うと、
優は黙って私の頭を自分の方に抱き寄せた。


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