第15話 <黒い渦>

文字数 968文字

《Side優》

真っ暗な部屋の電気をつけ、
ため息をついてベッドに横になった。

シャツのポケットから一枚のメモ書きを取り出す。

「そんな偶然、あるのか……?」

帰り際の戸田さんの言葉に衝撃を受けていた。

「星野さん、お母様って星野ゆかりさんですよね?」

「え? 何で母の事知ってるんですか?」

「うちの母と星野さんのお母様、
聖蘭学園のOG会で一緒になったみたいで。
以前息子さんと会ってみないかってお話が出たんですけど、
先方さんの都合がつかないってお断りされて。
あ、私の父は手塚製薬の人事をやっているんです」

「え!?」

あの時、母さんが会わせようとしたのが、
戸田さんだったのか!?

「私も忘れていたんですけど、
星野優さんって『あ! もしかしてあの時の!』って思って。
実際お会いしてみて素敵な方だなと思いました。
もしよかったら連絡下さい」

はにかんだ様子で渡されたLINEのID。

悪い子じゃないと思うが、困ったな。

起き上がり、とりあえずメモをテーブルの上に置いた。

俺はこれからどうするんだ?

奈美が俺に振り向く可能性は低いわけで……。

まぁ別に一人なら一人でも構わないんだが……。

戸田さんだけじゃない、これまで出会って来た子たち。

その子たちを振る度に、
彼女たちの悲しみに満ちた目を見てきた。

もうそう言う悲しい目は見たくない。

だからと言って全ての気持ちに応える事はできない。

自分を貫けば誰かを傷つけてしまうことに潰されそうだった。

次第に胸の奥から黒い渦のような感情が込み上げてくる。

あぁ、また、いつも俺を襲うこの感じ……。

はっはっと呼吸が荒くなる。

レイナ……。

「別れるなら死ぬ!」と必死で訴えた顔に

「じゃぁ死ねば!」

と、俺が放った声がブーメランのように戻ってきて、
自分に突き刺さる。

レイナが絶望的な目で俺を見つめる目が、
フラッシュバックした。

本当に死ぬなんて思っていなかったんだ。

逃れられない罪悪感。

「ごめん、ごめん」

思わず口からこぼれた。

「泣かないで!」

頭の中で奈美の声がした。

「奈美……」

モロッコで熱に浮かされている中、
俺を包み込んだ柔らかい手。

「眠るまでそばにいて」

不安に飲み込まれそうな俺のそばにいてくれた。

東京で再会してからというもの、
どんどんあいつの存在が大きくなっている。

「会わなかった頃より今の方が苦しいものだな」

俺は布団にうずくまり、固く目を閉じた。


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