第10話 <恋人岬の夕日>

文字数 886文字

《Side奈美》

足湯で一緒に浸かっていたご年配の夫婦が
「日帰りですか?」と声をかけてきた。

「はい」

と答えると、

「今日は天気も良いし、きっと夕日がきれいだから、
西伊豆の海岸沿いを通って帰るといいよ」

と教えてくれた。

確かに東側の海岸沿いは大渋滞だろう。
遠回りしても西側から帰った方が良さそうだ。

「修善寺から少し下った所の、
恋人岬って言う所がおすすめですよ」

とそのご夫婦は教えてくれた。

恋人岬って……
私たちの事をカップルだと思ったのだろうか……。

「まぁでもせっかくだし、
まだ時間もあるから行ってみようか」

私が言うと、

「オッケー」

と優は運転席に乗り込んだ。

「この車、ナビもないんだよね……」

山道をくねくね走り、海沿いに出た道を南下する。

土肥温泉を通過し、
ちょうど日が傾いた頃、恋人岬に着いた。

若いカップルが何組かすでに夕日を待っていて、
岬にある鐘を3回鳴らすと恋が実るという事から、
はにかんだ様子で鐘を鳴らす姿が微笑ましかった。

青かった空はだんだんと宇宙の青さと
オレンジのグラデーションに変わっていく。

「マジックアワー」

優がつぶやいた。

「ほんときれい。 来て正解だったね」

オレンジ色はだんだんと濃さを増し、あたり一面を染めた。

「こうやって一緒に夕日見てると、
サハラで優に出会った時を思い出すよ」

私が言った。

「奈美、あの時泣いてたよね」

「うわ! 気づいてたの!? っていうか今言うな!」

「今だから言えるんじゃん!」

恥ずかしかった。
まぁ恥ずかしい所はたくさん見られてるから、今更もういいか。

しばらく黙って二人で夕日を見つめていた。

こうやって黙っていても優は心地良い。

「優はたった一年前に知り合った人だけど、
もうずっと昔から知っている人みたいに安心できる。
同じ釜の飯を食った戦友って感じ?」

私がそう言うと

「なんだよそれ」

と優は笑って言った。

「わーー落ちるーー」

水平線に吸い込まれて行く太陽を見て二人声を揃えた。

「はぁ~おしまい!」

「それじゃ、帰るか」

太平洋に沈んだ太陽を見届けた私たちは、
駐車場に戻り、今度は海岸線を北へ向かって車を走らせた。

この後長い夜になるなんてこと思いもよらずに。


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