第8話 <同期の夏樹>

文字数 849文字

《Side奈美》

「お疲れ! はい、差し入れ!」

夏樹がコーヒーを私のデスクに置いた。

夏樹は前の会社の同期で私より先にこの会社に転職したが、
再就職先を探していた私をこの会社に引っ張ってくれた。

「円城寺くんと久しぶりに一緒に仕事することになったけど、
しっかりした大人になったね」

夏樹が言った。

「さすがにもう30歳だしね。 
しっかりしてもらわないと」

悟史は前の会社で私が最初に担当したクライアントだった。

一つ年上だったけど悟史もまだ2年目の新人で、
いつも先輩から怒られていた。
私も入社したてでいつも怒られていて、
お互い慰め合ううちに付き合うようになった。

「そうだ、今度のカメラマン、
ギャラリーにいた星野くん使うんだって?
彼、まだアシスタントしかやってないんでしょう?」

夏樹がちょっと懸念気味な表情で言った。

「そう、今回安達さんに頼むには予算が足りなくて。
でも彼のサンプル写真見て『これならいけるだろう』って思ったからさ」

「それはそうと、星野くん、
一緒にモロッコを旅した子だったなんて、すごい偶然! 運命みたい!」

「運命って大げさな……。
まぁ自分に近い業界で仕事してたのは驚いたけど」

私はコーヒーに口をつけて言った。

「あの王子はイケメンだったねー」

「そうね。 かなりモテモテだったらしいよ」

そう言って笑った。

「で、その王子さまと旅をして本当に何もなかったの?」

「なんも。 全くもって健全!」

と、私は小さく手を上げた。

「ふーん、
私だったらあんなイケメンと10日間も一緒にいたら、
どっかで襲ってるけどね」

「やめなさいよ」

私がたしなめると、夏樹は舌を出した。

そう、優はそう言うんじゃない。

もうそういうのからは解放させてあげたい。

優自身が心から「この人」って思える人と
幸せになってほしい。

傷ついた分だけ。

「彼女いないのかな?」

夏樹が聞いた。

「さぁ、聞いてないけど」

そうだ、あれから彼女できたのだろうか?

「まぁいてもおかしくないよな」

思わず呟いて、

「ん?」と夏樹が聞いたが

「いや、別に」

と、私はコーヒーをひと口飲んだ。
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