第26話 <停止信号>

文字数 648文字

《Side奈美》

優の誕生日を思いがけず知って、また会う口実ができた。

恵比寿に行ったらもしかして優に会えるかも……と思い、
意味もなく駅ビルをぶらついていたのだけど、
本屋で優を見かけた時は思わず小走りしてしまった。

それにしても自分から誕生日の話をし出すなんて、
私に祝って欲しかったんだろうか?

「お祝いをしてあげようか?」

と言ったら、めちゃめちゃ嬉しそうな顔してたな……。

また胸がきゅんとなった。

今日は仕事の帰りにプレゼントも買った。
前にボロボロのパスケースを使ってるのを見たから
黒革に星のスタッズの付いたパスケースをチョイスした。

思わず顔がほころぶ。

すると突然インターホンが鳴った。

「こんな時間に……」

「誰だろう?」とモニターを見ると、悟史が映っていた。

「悟史!」

最近なんだかんだバタバタしていて
しばらく会えていなかった。

でも急にうちに来るなんてどうして!?

慌ててプレゼントの包みをクローゼットに押し込み扉を閉めた。

「どうしたの?」

インターホン越しに聞くと

「最近会えてなかったし、
今日は比較的早く帰れたから来ちゃった」

と悟史は笑った。

とりあえず玄関を開けると

「ごめん急に、大丈夫だった?」

と悟史は聞いた。

「大丈夫」

精一杯笑顔を作った。

「明日は休みだし、久しぶりに奈美とゆっくりしたかった」

そう言って悟史は私を抱きしめた。

「ちゃんとつかまえておかないと、
どこかに行ってしまいそうな気がして」

悟史の声が耳のそばで響いた。

そしてこう続けた。

「もうあの王子とは会うな」

私は悟史の肩越しの壁をただ見つめていた。
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