最終話 <砂漠が美しいのは…>

文字数 1,882文字

《Side奈美》

乾いた熱風が吹く中、私たちは砂漠を歩いていた。

「ドライバー、モハメッドにお願いできて良かったね。
相変わらず元気そうで良かった」

眩い太陽に目を細めながら私は言った。

「『ユーとナミのハネムーンだったら絶対スケジュール空けるよ!』
って言ってくれてさ」

日差しの強烈さに、
優もターバンを目元まで下げながら言った。

空港に着いて私たちを見たモハメッドの最初の一言は、

「ユー、ナミ、良い顔になったな」

だった。

私たちは何がどう変わったのかわからないけど。

「あ! ねぇ、あれってもしかして!」

私は遠くを指差して言った。

「井戸だ……」

目を凝らして見ると、砂漠の真ん中にぽつんと井戸があった。

私たちは思わず井戸に向かって駆け寄った。

「ちゃんとつるべも付いてる」

二人は中を覗き込み、

「上げてみよう」

と優がロープを引いて、水を汲み上げると、
桶の中には透き通ったきれいな水が入っていた。

「きれいな水!」

私が言うと

「飲めるかな?」

と優が言った。

「それはやめた方が……」

と私は優をたしなめたが、
私はその水を手ですくって優の頬に当てた。

「冷たくて気持ちいい」

優は嬉しそうに笑って私の手に自分の手を重ねた。

「ほんとに砂漠の井戸にたどり着いたな」

優が言った。

「そうね、探し求めていた砂漠の井戸に
私たちついに辿り着いたね」

「この水がこれだけきれいで気持ち良いのは、
俺たちだからなんだろうな」

「うん、他の人とだったら
こんなにきれいでも気持ち良くもないよ」

そう、この井戸が格別なのは、
出会ってからこれまでの時間、
心を通わせた優と二人で見つけた井戸だから。

何もないこの砂漠がこの上なく美しいのは、
ほかの誰でもない、この人と一緒に見ている砂漠だから。

しばらく私たちはそこに座り込み、
果てしなく続く砂丘を見つめた。

目に映る景色は、あの時と同じ何もない砂漠だ。

だけど今の砂漠は目に見えないもので満ちている。

「私たちが探してた本当の砂漠の井戸は、
心の中にあるんだよね」

私が言うと、

「俺、その井戸一生枯らさないから」

と、優は私を抱き寄せ、二人はいつまでも
遥か5,600キロメートルに渡って広がる砂漠の真ん中で、
砂混じりの風に吹かれていた。



<あとがき>

このお話は前作「星の王子と砂漠の井戸」(モロッコ編)の続編です。

前作のモロッコ編では、自立や絆がテーマでしたが、
東京編はより深く人を想う気持ちや、
本当の幸せを得るために必要な事を掘り下げました。

本当の幸せの答えは自分の中にあるのだと思います。

ですが、世の中的には「こうすれば幸せになる」という条件を揃える事で、
自分の幸せを得ようとする人は少なくないです。

世の中が言う幸せ、はたまた誰かが言った幸せ像に従った所で、
それが本当に自分にとっての幸せかどうかはわかりません。

自分の中にある気持ち、思い、そんなものにきちんと目を向けて、
それを選択する事を恐れないで欲しいという気持ちから、
この東京編を書きました。

幸せを得るには時に自分との戦いであったり、
もしくは周りとも戦わないといけない場面があると思います。

でも、戦ったその先に得られるものは
きっと素晴らしいものだと思いますし、
また、そこに愛があれば戦えるのだと思います。

受け身でいるのではなはく、
自分から愛を発する事ができるようになると、
人は強くなれます。
(愛と言ってしまうと、漠然としてしまったり、
小っ恥ずかしい感じがするので、
「大切」と言い換えてもいいかもしれません。)

今回は恋愛がストーリーの軸になっていますが、
それは恋愛に限らず、仕事や親子間、
自分自身へも愛を向けることができれば強くなれると思うのです。

ベクトルを周りから見る自分ではなく、
自分が周りを見る様に変えていくと、
人生はなんとなく上手く回る様になるのかな?なんて思います。

「なかなかそう簡単にはできないよ」

と言う方はとりあえず
いろんな経験をして痛みも喜びも知って、
心を磨くと見えてくるものがあるのかなと思います。

さて、この物語、モロッコ編と合わせると
約70話とかなり長いお話になりました。
(自分で書いてそんなにあったか!とびっくりしました!)

こんな長編で読む方も飽きていないかな?と思いながらの連載でした。

でも、人の成長を描くとなると、
どうしても伝える事が多くなり、長くなってしまいます。
(これでモロッコ編を振り返ると、
二人とも大人になったなって感じます。)

最後まで読んでいただいた読者様には心より感謝申し上げます。

それでは、改めまして長い事ありがとうございました☆

皆様にも幸あれ☆

って言うかこの物語が読めた人は絶対幸せになれると思います!!笑



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