第19話 <母さんとの遭遇>

文字数 778文字

《Side優》

「母さん! 何してるの!?」

俺は驚いて思わず大きな声を出してしまった。

「お友達とランチしてたのよ。
この近くに話題になっていたレストランがあったから。
あなたこそこんな所で何してるの?」

ちらっと奈美の方に視線を向けて、母さんは俺に言った。

「俺は美術館に写真を見に来たんだ」

そう言うと

女性グループの一人が

「あら、デート?」

とニコニコして言った。

「いや、そんなんじゃないです!!」

俺と奈美は慌てて否定した。

「たまたまチケットを二枚貰ったから彼女を誘ったんだよ」

俺が言うと、

「他に誘った方がいい子いるでしょう?
戸田さんから聞いたわよ!
お嬢さん、この間偶然あなたに会ったって言ってたって!」

と母さんが言い、

「え?」

と奈美も驚いた顔をしていた。

「母さん! 彼女に失礼だろ!」

俺がたしなめると

「私はたまたまモロッコの繋がりで
この写真展に誘われただけです。
仕事にも関係ある事ですし、気になさらないで下さい」

と微笑んで言った。

「写真の仕事なんて遊びじゃないの」

と母さんが言い放つと、

その場の空気がピーンと凍りついたようになった。

「遊びじゃないですよ」

口を開いたのは奈美だった。

「写真で人の心を感動させるのは立派な仕事です」

奈美はまっすぐ母さんを見て言った。

母さんは奈美から俺に視線を移し、

「あなたの周りにはこういう人がいるのね。
だから変わってしまったのね」

そう言ってグループの仲間とその場を立ち去った。

「ごめん、余計な事言ったかな」

奈美は申し訳なさそうに言った。

「全然! 気にしなくていいよ」

俺は言った。

「それはそうと、戸田さんってもしかして戸田ミクちゃん?」

奈美が目を丸くして聞いた。

「あ、うん」

なんとなく口ごもると

「へぇ! そんな繋がりがあったんだね!
悪くない話じゃない!」

と、奈美は笑いながら言った。

俺はそっぽを向いて

「行こうか」

と駅に向かって歩き出した。


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