第14話 <モデルのミク登場>

文字数 1,739文字

《Side奈美》

ロケハンから戻り、広告に起用するタレントが決まった。

戸田ミク。

若い子向けの雑誌では名の通ったモデルで、
この夏にスタートしたドラマにも脇役ではあるが出演をしている。
これからブレイクしそうな子だ。

衣装とヘアメイクの打ち合わせで、
私と上司の並本さん、夏樹、安達さん、優が
彼女の事務所に出向いた。

「よろしくお願いします」

登場した戸田ミクはすらっと背の高いスレンダー美人。
透明感があり品もあり、柔らかだけど凛とした雰囲気もある。

「顔ちっさーー」

夏樹が私の耳元で言った。

「イメージ通りだね」

並本さんも満足そうだった。

「髪は自然に下ろして白のナチュラル系ワンピースバージョンと、
まとめ髪に浴衣バージョンのふたつで」

スタイリストが持って来た衣装の中からワンピースと浴衣を選んで、
おおむね方向性が見えて来たので打ち合わせは終了した。

並本さんは

「僕はまだ予定があるので!」

と早々に会社に戻って行き、安達さんが

「この間のお詫びもあるし、
倉田さんと星野、この後食事でもどう?」

と言った。

「何お詫びって?」

と夏樹が聞いたが、

「いや、何でもない!」

と誤魔化した。

「村井ちゃんと戸田さんもどう? 一緒に」

と、安達さんが誘うと夏樹は「もちろん!」と答え、
ミクちゃんも快く承諾してくれた。

「わぁ、その靴可愛い!」

ミクちゃんの靴を褒めると

「ありがとうございます!
この間雑誌の撮影で履いて可愛かったんで、
買い取っちゃいました」

と笑った。

オレンジ色のパンプスで、先端部分に四角く小さな
窓のようにカットされた部分があり、
その窓からちらっと足の指が見える。

今日のデニムパンツに映えて、さすがおしゃれに決まっていた。

向かったお店は恵比寿のダイニングバーで、
安達さんが気を利かせて個室を押さえてくれた。

「星野さんは今回が初めてのお仕事なんですか?」

ミクちゃんが切り出した。

「はい。
至らない点もあるかもしれませんが、よろしくお願いします」

と優は頭を下げた。

「誰でも最初はありますからね。
リラックスしていきましょう!」

とミクちゃんは微笑んだ。

「優しいなぁ~ミクちゃん! 俺ファンになった!」

安達さんが言ってみんな笑った。

「ところで安達さん、全然飲んでないじゃないですか!」

夏樹が突っ込むと、

「俺、下戸なのよ。 それに今日車だし」

と安達さんが言い、

「えぇーー」

と一同声を上げた。

「シラフでよくそこまで楽しそうにできますよね?」

優は冷めた感じで言った。

「おまえがいつもテンション低いんじゃ!
でも、こいつなかなかイケてるでしょ? ミクちゃんどう?」

「いやいや、失礼でしょそれは……」

と優がたしなめると、

「いや、素敵ですよね」

と言ったミクちゃんの頬がちょっと赤くなった気がした。

「さすが、モテ男子」

夏樹が私の耳元で囁いた。

確かにこんなきれいで優しい子だったら優にお似合いかも……。

私はにんまりして二人を互いに見た。

宴は23時くらいまで続き、安達さんが

「俺、家が武蔵小杉なんだけど、
同じ方向だったら送ってくよ!」

と言った。

「あ、私、都立大!」私は手を上げた。

「私は三軒茶屋です」ミクちゃんが言った。

「私は行く所があるので、ドロンさせていただきまーす!」

と忍者のようなポーズをして夏樹が言った。

「お前は祐天寺だよな?
なんだ、わりとみんな近くに住んでるんだな」

安達さんは優にそう言って四人は車に乗り込んだ。

「車、直ったんですか?」

私は嫌味を込めて聞いた。

「あぁ、もう大丈夫。 たぶん……」

ちょっと不安だが都内なら故障してもタクシーで帰れるだろう。

「星野が最初な! 
俺は可愛子ちゃん二人とその後ドライブする!」

安達さんはご機嫌な感じで言い、

「はいはい」

と助手席の優は適当な感じで相槌を打ち、
車は祐天寺に向かった。

「へー! 結構いいマンションじゃない!」

私が言うと、

「築30年だぜ。 狭いし駅から遠いし、一階だし」

と優は苦笑した。

「でも静かだし場所も良さそう」

私が言うと

「うん、
一番奥の部屋だから人の気配もないし落ち着くよ。
あ、猫は時々通過するけど」

と優は笑い、

「それ最高じゃん!」

と私も笑った。

「それじゃ、お疲れ様!」

と安達さんは手を上げ、車を発進させた。

その後ミクちゃんを家の近くで降ろし、
私を送り届けて安達さんは帰って行った。

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