第37話 <ダサい男>

文字数 910文字

《Side優》

約束した通り、俺は戸田さんと映画を観に行った。
今、話題のミステリー映画。

映画を選んで正解だったなと思った。

映画を観ている間は会話をしなくて済む。

何もかもがどうでも良くなっていた。

この間、気持ちに区切りをつけるために奈美に会いに行ったが、
それできれいさっぱりという訳にはいかなかった。

奈美の顔を見たら、思いを伝えたい衝動にかられ、
でも半人前の自分には奈美を幸せにできる自信がなく、
結局言えなかった。

虚ろな、重だるい気分は俺にまとわりついたまま離れない。
こんな気分、いつまで続くのか。
どうしたらここから抜け出せる?

映画を観終わり、戸田さんは楽しそうな顔をして
その内容について話していた。

俺はその話を遮断するように話しかけた。

「戸田さん、いつも思ってたけど髪色良いよね。
ブラウンにオレンジが少し入ってるの?」

「え?」

と、少し驚いたような顔をしたが

「そう、オレンジがちょっと入ってるの」

と戸田さんは答えた。

「俺、この色好きだな」

そう言って目を細め、戸田さんの髪に指を絡めた。

突然の俺の行為に戸田さんは頬を赤らめて目を見開いた。

「これから、うち来る?」

口を耳元に近づけて囁くように言った。

使い古された、女の子を落とすお決まりのパターン。

「星野さん……? 何だかいつもと違う……」

戸田さんは戸惑ったように言った。

「戸田さん……忘れさせてよ」

中身のない、単なる音としての言葉が口をついた。

すると戸田さんは怒ったような顔でこっちを見た。

「何があったのかは知りませんけど、
今日の星野さん、私好きじゃない。
確かに星野さんに誘ってもらうのは嬉しい。
でも、こういうやり方は悲しいです」

戸田さんは少し強い口調で言った。

「あ……」

何も言い返せなかった。

「私だってすぐに好きになって欲しいとか、
打ち解けて欲しいとかは思ってないです。
でも、今の星野さんは私に向き合う気持ちすらない。
星野さんがちゃんと私に向き合う気持ちになったら、連絡して下さい」

そう言って足早に立ち去って行った。

戸田さんの後ろ姿を見送り、我に返った気がした。

何をやってるんだ……俺は。

「ダセェ……」

俺はその場にしばらく立ち尽くし、
行き交う人々が俺の横を通り過ぎて行った。


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