第17話 <負け戦>

文字数 923文字

《Side優》

「星野! 
今日また朝広エージェンシーに届けもの……」

安達さんが言い終わる前に

「行けます! 大丈夫です!」

と返事をし、安達さんはいぶかしそうに俺を見た。

朝広に行けばまた奈美に会えるかもしれない!

俺は上機嫌で朝広に向かった。

が、毎回そう上手くはいかず、今日は奈美に会えなかった。

その代わりに円城寺さんに会った。

「あ、君は! 星の王子!」

「お疲れ様です」

俺は軽く会釈した。

「どう、仕事は順調?」

円城寺さんは言った。

「おかげさまで」

にこやかに俺は答えた。

「奈美がいつも君の話してるよ!
こないだも優が頑張ってるから、
自分も頑張らなきゃって言ってたよ」

こないだ奈美と会ったのか……。

「そうですか」

とりあえず笑ってみせた。

「今日は打ち合わせか何かですか?」

俺が聞くと

「そう、
もう終わって次の所に行くまでちょっと時間あるんだけど、
星野くんコーヒーでも飲んでかない?」

と近くのコーヒーショップに誘われた。

「あいつ、本当にモロッコに行って変わったよ」

悟史さんはコーヒーカップに手をかけ言った。

「はい、
モロッコにいる間も僕が見てても変わっていきましたね」

「君の影響もあるんだろうな」

「それはどうでしょう……」

グラスにガムシロップを入れながら俺は言った。

「実は少し君に嫉妬してたんだ」

「え?」

驚いて俺は顔を上げた。

「君が奈美を変えたのかと思って。
それに別れていた期間とはいえ、
ずっと他の男と一緒にいたのを聞かされて複雑だった」

「すいません……」

俺は慌てて頭を下げた。

「いや、君が悪い訳じゃないよ」

円城寺さんは逆に申し訳なさそうな顔をして言った。

「でも奈美が戻って来てどれだけ大事かわかった……って
こんな話聞かされても困るよな」

と笑った。

「それは俺も同じだ」

言いたかったけどそんな事言えるわけない。

「奈美さんは大丈夫ですよ。 
円城寺さんしか見てませんよ」

グラスの氷をストローでカラカラ鳴らしながら俺は言った。

「そっか……
ごめんな若い子にこんな話しちゃって」

「いえ」

「君は彼女はいないのかい?」

円城寺さんはこれまでの空気を変えるように言った。

「今はいません」

「そうか、もったいないな。 
いい子がいたら紹介するよ!」

と円城寺さんは笑い、俺も何も言わずに微笑んだ。


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