第18話 <君が眩しく見えた公園>

文字数 845文字

《Side奈美》

美術館で待ち合わせ。

「お待たせ!」

先に来て待っていた優に駆け寄った。

「場所すぐわかった?」

優が聞いた。

「うん、わかった」

私がそう答えると、優は目を細めて微笑んだ。

隣の公園の緑が優の後ろにきらめいて、
今日の優はいつもより一層眩しく見えた。

マグリブ写真展は、
エジプトやチュニジア、モロッコの風景写真が展示されていた。

夕日のサハラに列をなすラクダ。

「ラクダハラクダ、ハーツカレタ」

思わず私が呟くと

「何それ?」

と優は突っ込んだ。

「砂漠でラクダ引きのおじさんがずーっと言ってたんだよ」

そう言うと優は

「あはは!」

と笑った。

こんなに屈託無く笑う優は珍しい。

展示会を一通り見て回り、
私たちは美術館を出て隣接する公園に行ってみた。

夏の眩い日差し、陽炎がゆらめく。

木陰に入ると少しだけ涼しい風が吹いていて、ほっとした。

ベンチに座り、売店が近くにあったので

「何か飲み物買って来るね!」

と言い、私は冷えたお茶を買った。

ベンチに戻ると、
スマホを見ている優の背中は隙だらけ。

そろそろと近づいて、
首筋に冷たいペットボトルを押し当てた。

「ひゃあ!」

と、優は飛び上がってびっくりした顔で振り向いた。

「いつも脅かされてばっかりだからお返し!」

私はベーと舌を出して言った。

「まぁまたすぐお返しするけどね!」

優も負けずにべーと舌を出して言った。

さわさわと夏の風がベンチをすり抜けて行った。

ゴクゴクと喉を通り過ぎていく冷たいお茶が気持ちいい。

「なんか、幸せだな」

優が呟いた。

「そう?」

私は微笑んで言った。

「俺、奈美といると幸せだ」

そう言って私を見た。

「え?」

心臓がドキッと鳴った。

「こんな事言っちゃだめかな?」

真顔で優は言葉を続けた。

「またまた! それ何のギャグ!?」

私は笑って誤魔化したが、優は何も答えなかった。

一休みした後、何だか妙な空気を漂わせたまま
私たちは公園の外に出た。

駅まで向かう途中、数人の女性グループとすれ違った。

「優!」

その中の一人が声を上げた。

「母さん!」

優のその一言で

「え?」

と私は足を止めた。


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