第16話 <恋するまなざし>

文字数 1,292文字

《Side奈美》

「あの後、どっか行ったの?」

ランチで入った定食屋で夏樹が聞いてきた。

「いや、安達さんの車に乗ってみんな大人しく帰ったよ」

「そうなんだー。
ところであの子、恋する目をしていたね」

ニヤニヤしながら夏樹は言った。

「あぁ、ミクちゃん?」

「いや違う。 そっちもだけど星野君! 
あれは恋する男子の目だったよ。
私はそういうの見逃さないからね!」

「え!? 優、ミクちゃん狙ってたの?」

ありえない話ではないけど、ちょっと意外な気がした。

「まぁでも美男美女カップルでお似合いかもね」

と私が言うと

「違う違うそっちじゃない! 倉田っち、あんただよ!
あのまなざしはあんたに恋する目!」

「まさかーーー!」

夏樹はまたバカな事を言うなと思った。

「あのモテ男子が10日もモロッコで一緒にいて、
手出ししなかった女だよ!」

と、自分を指さした。

「男なんて頭ん中何考えてるかわかんないよ」

「いや、それにしても私はないんじゃないかと……」

そうだ、ロケハンの民宿でだって何もなかったし。

「どう考えてもミクちゃんの方が可愛いし性格も良いし。
それに私の方が4つも年上だし、だいたい悟史もいるし!」

「可愛いとか性格がいいだけで恋愛になるなら、
世の中美男美女カップルしか成立しないっしょ。
今のご時世4歳差なんてどうってことないし、
彼氏がいたって好きになる事はいくらでもある。
恋は理屈じゃない!」

「何力説してんの!」

全然気がつかなかった、と言うか本当だろうか?
夏樹の思い違いなんじゃないのか?

「ほんっとに鈍いよね。 マジで気がつかなかったの?」

「うーーん」

にわかには信じられない話だった。

一日の作業が終わり、
帰り支度を始めようとデスクを片付け始めた時、
ひょいとパーテーション越しに優が顔を覗かせた。

「きゃあ!」

「ははは! びっくりした?」

優はしてやったりと言った顔で言った。

「な、何でここにいるの!?」

さっきの夏樹の話もあり、心臓がバクバク言っていた。

「この会社に届け物があって。
奈美のデスク教えてもらった」

にこにこして優は言った。

「もう帰るの?」

優は続けて言った。

「うん、帰るよ」

「飯でも食ってかない?」

「別にいいけど……」

夏樹が言っていた事が気になり、少し戸惑ったが、
私たちは近くの居酒屋に行く事にした。

「実はさ、安達さんに『マグリブ展』のチケット二枚もらっちゃって。
北アフリカの写真展なんだけどさ、
奈美だったらこういうの好きかなと思って。 一緒に行かない?」

「へー、モロッコの写真もあるんだ?」

そう言って差し出されたチケットを眺めた。

でも一緒に写真展なんてデートみたい……。

行ってもいいのかな?

これまでだったらそこまで気にしなかったけど、
夏樹が変な事を言ったもんだから、少し躊躇してしまう。

そもそも今一緒に飲んでるのも、
もしかして私に対して特別な感情があっての事なんだろうか……?

優の表情を伺うようにじっと見ていたら

「ん?」

と優もこちらを見て少し首をかしげた。

何だその可愛いポーズ!

思わず目をそらした。

「写真展気乗りしない?」

不安そうに優は言った。

「いや、そんな事ない。 行くよ」

そう言うと優はほっとしたように微笑んだ。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み