第27話 <覚悟のしかた>

文字数 1,005文字

《Side優》

誕生日まではスケジュールがパンパンに詰まっていた。
今日も週末にもかかわらずロケが入っていた。

でもこれが終わればまた奈美に会える!

それを拠り所に仕事を頑張った。

ただ……時折頭をよぎるのは、
それでこの先どうなるのだろう?という事。

奈美には円城寺さんがいる。

二人は別れるなんて事あるのだろうか?

別れて俺を選ぶなんて事あるのかな?

万が一俺を選ぶことがあったとして、
先の見えない写真の仕事を続けた所で、
俺は奈美を幸せにできるんだろうか?

今日は千葉の房総半島での仕事だった。
今回は俺メインじゃなく、安達さんの助手としての仕事だが。

休憩時間、俺は安達さんに尋ねた。

「安達さんはカメラマン一本でやっていく覚悟って
いつできたんですか?」

「うーん、そうだなぁ」

安達さんは空の方を見ながらしばらく考えて言った。

「嫁と結婚決めた時かな」

そう言って笑った。

「え? でも不安定な職業で家族に迷惑かけたらって
思わなかったんですか?」

「逆だよ」

安達さんはにっこり笑って言った。

「嫁がいたから好きな事で頑張れたんだ。
少しくらいしんどい事があっても、嫁の顔見れば回復できる。
それに『意地でもこいつを幸せにする!』って言うのが
原動力になれたかな」

まっすぐ俺を見て安達さんは言った。

「なんだ星野、好きな女でもできたか!」

にやにやしながら俺の肩を抱いて安達さんは言った。

「いや、ちょっと聞いてみただけですよ」

俺はにゅっと口をへの字に曲げて言った。

その場を誤魔化すように
スマホを取り出すと着信が沢山入っていた。

「叔母さん?」

それは葉山に住む母さんのお姉さんからだった。

「何だろう?」

と電話をかけてみると、

「用事があって朝からゆかりに電話をしているんだけど、
あの子出ないのよ」

と心配そうに言っていた。

「俺も電話してみます」

と母さんの携帯にかけてみたがやはり出なかった。
家の固定電話も留守電になってしまう。

「母さん、大丈夫かな」

心配で様子を見に行きたかったが、
千葉にいるのですぐには行けない。

「どうしよう?」と考えて、
比較的実家から家の近い奈美に電話をした。

「どうしたの?」

驚いた様子で奈美は電話に出た。

「母さんの様子がちょっと心配なんだけど、
俺、今千葉にいてすぐに実家に行けないんだ。
もし都合がつくようだったら様子を見に行ってくれると助かるんだけど」

俺がそう言うと

「わかった」

と奈美は言ってくれて、俺は実家の位置情報を送り、
また仕事に戻った。


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