第9話 <修善寺のロケハンへ>

文字数 1,125文字

《Side優》

ロケハン当日、待ち合わせは都立大駅近くの目黒通り沿い。

そこで奈美が待っているので、
俺が車でピックアップすることになっていた。

都立大って意外と近くに住んでたんだな……。
なんで今まで遭遇しなかったのか不思議なくらいだ。

待ち合わせのポイントに近づくと、
白い半袖のカットソーにブルーのパンツスカートの奈美が見えた。

「お待たせ!」窓から顔を出すと、

「わー可愛い車!」と奈美が言った。

「安達さんの車、ずいぶん古いものみたいで」

「ルパンが乗ってそう」

「フィアットって言うらしい。 
車あんま詳しくないけど」

そう言うと奈美は

「おじゃましまーす!」

と言って助手席に座った。

二人の距離は50センチに満たないと言った所だろうか。

シャンプーの匂いかな?
何だか甘い香りがする。
モロッコでも隣に座ってたのに、あの時は気がつかなかった。

柄にもなくドキドキしたが、
運転に集中するように「よし!」と気合を入れてアクセルを踏んだ。

夏休みの伊豆は海水浴シーズンということもあって、
海沿いは混雑していたけど、
内陸の修善寺あたりは比較的空いていた。

クライアントの化粧品メーカーにご挨拶をしてから、
撮影ポイントを探すため修善寺の温泉街を歩いた。

町を流れる川には赤い橋がかかっていて風情がある場所だ。

「竹林もあるらしいから行ってみよう」

と奈美が言った。

「この竹林はいい感じだね。 使えそう」

俺がそう言うと

「確かに、和っぽくて清廉とした感じでいいかも」

と奈美は真剣な目でいろんなアングルから
写真を撮ったりしていた。

俺も光の加減や方向、アングルなどをチェックした。

その他にも使えそうな場所をいくつか周り、歩き疲れたので、
川のほとりに設置された足湯の休憩所で一休みした。

「わー気持ちいい!」

「癒されるな」

「仕事じゃなければ最高なんだけどね。
まぁでも大体目星はついたし。 今日はここまで!」

と奈美はロケハンを締めくくった。

風が木をゆったりと揺らすと同時に、
涼やかな空気が汗ばんだ体の熱を運び去っていく。
木漏れ日とザワザワという音が心地良い。

「ねぇ、ロケハン土曜日にしちゃって大丈夫だった?
休日って円城寺さんと会ったりするんじゃないの?」

奈美の顔を覗き込むように俺は聞いた。

「悟史? あの人も休日出社とかあるし。 
今日も仕事って言ってたし」

「そうなんだ」

毎週会ってる訳じゃない事に少しほっとした。

「優は? 彼女できた?」

奈美が微笑んで聞いてきた。

「いや、そういうのまだ当分いいや……」

「そっか、こんな男前一人にしとくのもったいないけど。
まぁでも優はイケメンだし優しいから、
絶対そのうち良い子が見つかるよ」

そう言って笑う奈美を見て、酷な励ましだと思いつつ、

「だといいけど」

とそっぽを向いて答えた。
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