第36話 <ブルースター>

文字数 828文字

《Side奈美》

仕事を終え、
いつも通りに都立大の駅に降り立ち改札を出ると、
見慣れた人影にぎくりとした。

柱にもたれかかって優が立っていた。

「何してるの?」

心臓の鼓動が大きく波打つ。

「奈美を待ってた」

待ってたっていつから待っていたのだろう?
私の帰る時間なんて知らないだろうに。

「私? 何か用事?」

そう聞くと、

「プレゼント」

と言って後ろ手に隠していた、
小さな青い花がたくさん入った花束を差し出した。

「結婚祝い」

静かな目をして言った。

「この花、ブルースターって言うんだ。 
星の王子からの気持ち」

そう言って少し微笑んだ。

「きれい」

シンプルなブルースターだけの花束だったけど、
思わず目を細めた。

「サムシングブルーって言って、
花嫁さんは何か青い物を身につけると
幸せになれるんだって」

そう言って笑い、さらにこう続けた。

「まぁ、円城寺さんだったら、
奈美を幸せにしてくれると思うけど。
奈美、もう円城寺さんと別れるなよ」

「あ、ありがとう」

とりあえずお礼を言った。

「優も……好きな人と幸せになってね」

そう言って微笑んだ。

そうだ、優もミクちゃんとだったらきっと幸せになる。

しばらく黙ってうつむいていた優が口を開いた。

「奈美、俺……」

私の目を見て言いかけたが、唇をきゅっと噛んで、

「いや、何でもない」

と、また目を伏せた。

そして

「それだけ。 それじゃ」

と足早に改札の奥に消えて行った。

花束を抱えて自宅に戻り、
すぐにブルースターを生けると、
可憐な花たちが花瓶から広がった。
みんな私を祝うかのようにニコニコ笑っているみたい。

優、本当は他に話したい事があったんじゃないだろうか。

今日の優の顔は、私の胸を締め付けた。

ブルースター。

花束に添えられていた、この花の説明書きに書いてあった花言葉。

「幸福な愛」

星の王子の小さな青い星が……「幸福な愛」がこんなに沢山。

「奈美! 幸せにね!」と、
ニコニコ笑っている花を見つめ、なぜか涙がこぼれた。

優……あなたに会いたいよ。

キッチンに立ち尽くし、私は泣いた。
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