第28話 <思い出を守らなきゃ!>

文字数 1,668文字

《Side奈美》

優からご実家のお母さんの様子を見に行って欲しいと電話があった。

朝から電話に出ないらしいけど大丈夫だろうか?

悟史からもう優に会うなと釘をさされてから、
優と関わる事に躊躇した。

でも、お母さんの事は心配だ。
私は優の実家に出向いた。

教えてもらった位置情報からして
高級住宅街っぽいなと思ってはいたけど、
予想通り豪邸だらけの中を歩いた。

すると古びてはいるが、立派なお宅が目に入った。

表札には「星野」とある。

「こんな大きなおうちに一人なのかしら……」

お母さんの気持ちを思いやった。

そしてふぅーーっと深呼吸をして、インターホンを押した。

「……」

反応がない。

本当に中にいらっしゃるのかしら?
もしかしたら留守なんじゃ?

もう一度インターホンを押してみたが、やはり反応はなかった。

門扉から中を覗き込むように様子を伺うと、
なんだか焦げ臭いような臭いがした。

何かおかしいなと思った時、
窓の隙間から煙が漏れているのに気が付いた。

「え! 火事!?」

私は慌てて門を開けて中に入った。

「お母さん!」

ドアやガラス窓を叩いたけど、反応はなかった。

「どこか、中に入れる所は……」

庭から掃き出し窓をひとつひとつ引いてみると、
一箇所鍵が開いていて戸が開き、
私はすかさず中に飛び込んだ。

ええっと……。

とりあえず廊下を進むと、その先はリビングルームだったが、
ここにはいないようだった。

どこだ!?

こういう時に大きな家は困る。

廊下を反対方向に向かうと、煙が濃くなってきた。

「ゲホゲホ!」

思わずせき込んだ。
煙で目が痛い。

ハンカチで口を覆い、姿勢を低くして奥に進むと、
少し開いたドアの隙間から煙が出ていた。

あそこが火元かしら!?

近づいてドアを開けると、そこはアイロン台やミシン、
作業台のようなテーブルがある小部屋で、
小さなソファに横たわるお母さんを見つけた。

「お母さん!」

駆け寄ってみたが意識が無く、ぐったりしている。

そして炎が壁をつたい登っていた。

「早く逃げなきゃ!」

私はお母さんを背負い外に出ると、
近所の人たちも火事に気が付いて集まって来ていた。

「今、消防を呼んだから!」

そう言って近所のおじさんが、
バケツの水を持って中に入ろうとした。

「ちょ、ちょっとだけ待って下さい!
中に大事なものがあるんで!」

私はそう言ってまた家の中に飛び込んだ。

お母さんがいた部屋のテーブルには
優のアルバムが開いた状態で置いてあった。

きっとそれを見ていたのだろう。

それだけは持って出ないと!

小部屋に再び入ると、炎はすでに
アルバムに襲いかかっていた。

「アルバムが!」

慌ててアルバムを手にすると、
すでに端っこの方に火がついて燃えかかっていた。

「だめ!」

私はとっさに炎を素手で押さえつけた。

手の平に激痛が走る。

が、火は無事消えてくれて、
アルバムはそれ以上の被害を受ける事はなかった。

アルバムを抱えて外に出ると、
遠くから消防車のサイレンが聞こえた。

「あんた! 無茶して!」

おじさんに怒られたが、
お母さんとアルバムを救出できてほっとしていた。

それから優のお母さんは病院に運ばれ、
私も火傷の手当をされた。

火事の原因は老朽化した照明器具からの漏電だった。

幸い小部屋の壁と床の一部が燃えただけで、
家はそこだけ修繕が必要だが住むには問題ないとの事だった。

お母さんは明け方まで家の売却に備えて片付けをしていて、
見つけたアルバムを見ているうちに電話にも気がつかないほど
眠り込んでしまっていたようだった。

危うく一酸化炭素中毒になる所で間一髪だったらしい。

「奈美!」

病室に駆けつけた優が私に駆け寄った。

「ありがとう。 でもバカなことして……」

そう言って包帯が巻かれた私の右手を手に取った。

「アルバムがね。 優の小さい頃の写真の。
大切そうに台紙に貼ってあって、
コメントとかシールとかで飾ってあって。
それが燃えちゃったら取り返しつかないでしょう?」

そう言うと

「奈美が死んでも取り返しつかない」

と優は言った。

私はその言葉には特に答えずに、

「そうだ」

と言った。

「何?」

と優が聞いたので、

「誕生日、やっぱり行けなくなった」

と優に告げた。

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