第39話 <部屋と彼女>

文字数 1,017文字

《Side優》

どういうつもりなのか……こいつ俺んちについて来たけど。

「コーヒーと紅茶、どっちがいい?
酔ってんだったら水の方がいいか?」

「うん。 それじゃお水ちょうだい」

グラスにミネラルウォーターを注いで手渡した。

「優の部屋、もっと潔癖っぽい部屋かと思ってたら
普通の男子の部屋って感じで何だかほっとした」

と奈美は笑った。

「普通だよ」

床に積み重なった本や雑誌をどけて、俺も床に座った。

「で? 何がどうしてどうなった?」

俺は奈美に問いかけた。

「うん……今日ミクちゃんに会った。 
で、いろいろ言われた」

「いろいろって?」

「私の……優に対する気持ちとか……」

「うん?」

しばらく目を閉じて、意を決したように奈美は口を開いた。

「私、こないだ優の部屋に来た時に、
ミクちゃんの靴があるのを見たの。
あの日来てたよね? ミクちゃん」

気がついてたのか、とちょっと焦った。

「来てたけどなんもねぇよ」

「わかってる」

疑ってる訳じゃないことにほっとした。

「私、優とミクちゃんだったらすごいお似合いだなって思ってて、
思ってたけど、同時にどうしようもない苦しさに襲われて。
そこから逃げたんだ。 悟史の事を言い訳にして」

「円城寺さんとは結婚するんだろ?」

「いや、断ろうと思ってる」

「なんで!?」

こいつが何を考えているのか本当にわからなかった。

途切れ途切れに、言葉を絞り出すように奈美は続けた。

「優が……他の人にとられちゃうとか、
もう会えないかもしれないって思ったら、
私こんな風に電車も飛び降りちゃったし、
部屋にも来ちゃったし、そういう事。 それが真実」

「ん? 何言ってんのかよくわかんないんだけど?」

奈美は一度息を飲むように呼吸を整え、

「わかったんだ。
私が一番一緒にいたいのは優なんだ。 悟史じゃない」

まっすぐに俺を見て言った。

「え?」

突然の告白で頭が真っ白になった。

呆然としていると、奈美は続けた。

「優は? 私の事、どう思ってる?」

どうって願ったりかなったりの状況なはずなのに、
情報処理が追いつかず言葉が出てこない。

不安そうに俺の顔を覗き込んでいる奈美を見て、
我に返り「ちょ、ちょっと待って」と言った。

「突然すぎだろ、頭の整理つかねぇ」

「ごめん……」

奈美は申し訳なさそう縮こまって言った。

「つまり、その……奈美は俺の事……
好き……ってことで……いいのか?」

「ってことで……」

俺は自分でもわりと冷静な方だと思う。
だけど、この時は思考回路がどうもショートしてしまったようだ。


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