第11話 <トラブル発生>

文字数 1,403文字

《Side優》

東京に向けて伊豆半島を北上していた。

海岸線沿いを走っていたけど、
日が暮れた西伊豆は暗くて景色はほとんど見えない。

戸田という所を過ぎたあたりで、
車の調子がおかしいことに気がつき、
ついには動かなくなってしまった。

「どうしたの?」

奈美が不安そうに聞く。

「いや、わかんない」

とりあえず降りて車の周りを見て見たが、
外側からは良くわからない。

あたりは時々車が通り過ぎて行ったが、人気のない場所だった。

「参ったなぁ……」

とりあえずロードサービスに問い合わせをしてみたけど、
今日は夏休み最初の土曜日とのことで、出動件数も多く、
少なくとも1時間以上は待たないといけないようだった。

「今電話したら、古い車だし症状からするとレッカーで
修理工場まで移動しないとだめかもしれないって言われた」

俺がそう言うと

「どうしよう……」

と奈美が困った顔をしたので、今度は安達さんに電話をした。

安達さんも「すまん」と申し訳なさそうにしていたが、
ひとまず奈美をそんな所に置いておくのは申し訳ないし、
夜も遅くなりそうなのでどこかに一泊してきなさいと言った。

「さっき温泉街っぽい所を通り過ぎたから、
まだそんなに離れてないしそこまで歩こう」

「えぇ! こんな真っ暗な中を歩くの!?」

「じゃぁここでロードサービスが来るまで待つ?」

「それも嫌……」

奈美は今にも泣き出しそうな顔で言った。

「俺も温泉街までは一緒に行くから。
宿に入ったら俺だけまたここに戻るよ」

「うぅ……わかった」

そして俺と奈美は温泉街の方へ歩き出した。

「なんか出て来そうで怖いなぁ……」

奈美は恐々とあたりを警戒しながら歩いていた。

「こんだけ何にもない所なら変質者は出ないよ。
出てもお化けくらいだ」

「十分嫌なんですけど!!」

まぁビビリの奈美からしたらこの道を歩くのは、
肝試しなんてもんじゃないだろうな。

ふと俺の中にイタズラ心が生まれた。

突然奈美の方を向き

「わぁ! 奈美後ろ!!」

と叫んで俺は走り出した。

「え!? 何やだやだ待って! キャーーー!!」

狙い通り、奈美は大声を出して猛ダッシュで追いかけてきた。

くくくと笑いながら50メートルくらい走り、
追いついてきた奈美が

「先に行かないでよーー!」

と心底怯えた顔でシャツの袖を掴んだ。

「うっそぴょーん」

とおどけると、

「ほんとそういうのやめて!!」

と今度は本気で怒った。

きゅっと眉をつり上げてまっすぐ俺を見上げる瞳、
ムキになった顔……こいつはほんとに……

俺の腕が奈美の背中にまわりかけたが、
「はっ」と我に帰り、
奈美に気づかれないようにその手を引っ込めた。

「さぁもう行くぞ!」

俺は何事もなかったように、きびすを返し歩き始めた。

「そっちがふざけたんじゃん!!」

奈美はブーブー言いながら後に続いた。

車から20分くらい歩き、俺たちは温泉街に着いた。

安達さんが宿泊費は出してくれると言っていたけど、
奈美が「高そうな所はやめよう」と言ったので、民宿に入った。

「一部屋だけなら空いてるんですけど……
今日はもうどこもいっぱいだと思います。
うちはたまたまキャンセルが出て」

ハイシーズンの観光地、仕方ない。

「どうする?」

と奈美に聞くと、

「しょうがないね」

と答えた。

「お部屋はふすまで仕切れますので……」

と、おかみさんは恐縮して言った。

「ふすまで仕切りがあるなら全然オッケー。
優は弟みたいなもんだし」

と奈美は笑った。

弟か……。

俺は奈美にとって永遠に弟なんだろうか。
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