第1章 第2話

文字数 906文字

 会議は社長をはじめとする役員、及び今回のイベントに関わった企画部全員、合わせて30人程で陰鬱な雰囲気の中、ノロノロと進んでいる。
 刑事事件。カミングアウト。その影響は当社の売り上げ、即ち旅行販売に少なからず悪影響が出ている様だ。社長なぞ、創立以来の大ピンチ、などと口走っており…

 仕方ない。ここはひとつ、この会社の最年長者の俺が尻を叩いてやらねば。
「でもな、みんな」

「何でしょう、専務?」

 社長をはじめ、下を向いていた社員たちがゆっくり顔を上げる。
「今週の報道のお陰で、我が社の知名度は一般社会に広く知れ渡った。そうだよな?」
 皆の視線が俺に集まる。

「確かに内容はネガティブであり、我が社も『明白な知名度狙いの企画』なんて言われているんだろう?」
「その通りですが…」
「確かに。で?」
 何名かが返答する。

「でも、良くも悪くも、国民はこの会社、『鳥の羽』の名前を知る事になった」
「…」
「……」
「今までは一部の旅行好き、しかもネット上でしか当社は知られていなかった」
 全員が固唾を飲んで俺の話を聞いている。

「それが今回、全国規模で当社は知れ渡った。山本くん、当社の顧客数?」
「ハイ、先週までで35000人弱ですっ」
「今週の一連の報道の視聴率から推測される視聴者数は?」
「えーーーと… わっ この数日の積算で5%と考えても…」
「そう。大体1%で40万人と言われているから…」
 全員の表情がパッと明るくなる。
「200万人…」
「マジか…」
「ホントに…?」

 俺は更に続ける。
「別に俺たちは法を犯したわけではない。むしろ被害者だ。何でお前達が下を向くんだよ。これ、大チャンスだと思わないか? 山本っ」
「ハイっ ホントだ… そういえばHPへのアクセス数、かつてないほどです…」
「それを指を咥えて眺めてるだけでいいのか、お前らっ?」

 皆、互いに顔を合わせながら、
「ど、ど、どうしよう…」
「釈明文とか載せるべきじゃない?」
「いや、それよりも、ここは撃って出るべきじゃないか?」
「それもある。それなっ」

 会議は一変して熱気に満ち溢れ出す。俺は社長に一礼して松葉杖をよいしょとつき、ゆっくりと立ち上がってコーヒーを飲みに会議室を出る。
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