第3章 第9話

文字数 1,039文字

 土曜日。
 朝7時に『しまだ』に車を付ける。墓参という事なので俺は紺のブレザーにデニムを合わせている。店から光子と翔が出てくる。光子は珍しく紺のジャケットにパンツ。金色のポニーテールと良く合っている。翔は鉄板の制服姿。今時ガチの学ランが逆に眩しい。

 首都高を経て中央道に入ると光子が鼻歌を口ずさむ。俺ら世代なら誰もが知っている、中央道をモチーフにした曲だ。実にツッコミどころの多い曲で、まずこの道路は断じて『Freeway』では無い。『Express way』だ。ギリで『Highway』も有る。

 元々この自動車道は『中央高速』の名称で開通したのだが、俺が5歳くらいの頃に『中央自動車道』と改称されたらしい。未だに俺より年配世代は『中央高速』と呼ぶ人も多い。

 調布基地、なんて存在しない。1973年以前は旧日本軍、在日米軍が使用していた事もあり、基地としての機能を兼ね備えていたのは事実らしい。だがそれ以降は『調布飛行場』なのである。東京都営の飛行場だ。

 この曲のせいで多くの間違った知識が広まってしまい、それが常識となってしまった。学生時代をこの道路沿いで過ごした故、昔から許しがたいものがある。
 そんな俺の思いを余所に、気持ち良さそうに口ずさむ光子。ちょっと前ならば『その歌はおかしいんだ! 間違っている』と俺の考えを押し付けていただろう。でも今はそんなことより、隣で嬉しそうにハミングしている彼女が愛おしい。

 談合坂SAで朝食を取る。翔は車の中でも期末試験の勉強、今も食べながら勉強。昔の俺を見ているようでつい口角が上がるのを感じる。
「ったく。オマエ折角旅に出てんだから、今日ぐらい息抜けやー」
「そうはいかないよ。なにせ、目の前に『伝説のキング』がいるんだから。学年一位は無理にしても、そこそこやらないと。ね、お父さん」

 あれ以来、堂々と俺を父親呼ばわりし続けていやがる。俺はニヤリと笑いながら、
「なあ翔。お前が俺を『お父さん』と呼ぶと、俺は真琴さんと夫婦になってしまうのだが?」
 翔は実に微妙な表情で、
「うーーん… 恐らく母は金光さんのタイプの女性では無いかと…」

 おい。俺が真琴さんとどうにかしようと思ってるのか? 愛しい彼女の娘に手出しする訳ないだろうが、と翔の頭をこづいていると、
「あー、テメー今、親子丼っなんて考えてたんだろコラ!」
「それはお前が今食ってるヤツな。アホくさ」

 どうみても母と息子にしか見えない光子と翔を眺めながら、大きく溜め息を一つ吐く俺である。
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