第4章 第4話

文字数 2,122文字

 豪勢な夕食をしゃぶり尽くした後。

 約20名の俺らなのだが何故だか一升瓶が20本ほど転がっている。乱痴気騒ぎ。あるんだ、悟り世代やZ世代でもこーゆーの… 昭和世代だけじゃなかったのだ。世代を超えて引き継がれるべきものがしっかりと受け継がれていく様子に少し感極まっていると…

「あ、姐しゃま〜 わ、ワタクシめぐみんちゃんが〜 占いしてあげましゅ〜 てへ」

 泥酔した営業部の佐藤が胸元が無駄に開いたまま光子に寄っていく。
「おおおおお! 営業部の幻の秘密兵器! 佐藤の相性占いが観れるのか!」
「なんだと… 金出しても占ってくれないんだぞ」
「めぐみん〜 頑張れえ〜〜 キャハ〜」

 相性占い… 全く営業部らしい。宴会好きの彼等にとって、格好の出し物なのだろう。見た目は地味でとても有能そうには見えない佐藤なのだが、こんな特技があるとは大したものだ。きっと三ツ矢の命令で無理矢理覚えさせられたのだろうが……

 周りに5人ほどを抱えた光子は最早半乳丸見え状態だ。いずみん氏はその膝枕で幸せそうに永眠していられる。
「よーし。やってみろコラ。しっかり占えや」
「めぐみん、頑張るぞー おーー では。お姐さん、生年月日を教えてくれますか」

 佐藤が豹変する。素人にしては中々いい雰囲気を出すじゃないか。さぞや毎晩鏡の前で練習したのだr―
「成る程成る程。では、金光さん。生年月日とわかれば生まれた時間を…」

 顔付きが違う。俺の知っている、少し疲れた自信なさげな佐藤ではない… なんだこいつは… 何かが憑依したのだろうか?
「成る程成る程。これはこれは。ふふふ。今日花さん。貴女ならわかるわね。お二人の誕生日と同じ、歴史上の人物と言えば?」

 突如振られた村上は頭を捻りながら、
「え〜〜と。姐御が12月の1日ってーと。ああ、信玄じゃん」
「そう。そして?」
「キンちゃんが〜〜 2月18日? アレ… まさか…」

 俺は思わずゴクリと唾を飲み込む。宴会場もシンと静まり返る。俺は堪えきれず、
「おい村上、何だよ、その顔… よせよ… で、何だよ、誰なんだよ?」
「ヒント。信玄の永遠のライバル…」
「まさか… 上杉… 謙信… か?」

 佐藤がニヤリと笑う。もはや全くの別人のようだ。

「そうです。お二人の相性は良くも悪くも、この国を代表する程に最強なのです!」

 ウオーーーー、と観衆がどよめく。俺もすっかり彼女の話に没頭してしまう。
「マジか…」

 佐藤は目を細め、遠くを見つめる表情で、
「二人はもう前世どころか、前前前世なんて目じゃない程の古からの結び付きなのです。時には信玄と謙信の如く血と血で争い合う二人。ある時はその愛で多くの人々を救済する二人。そんなあなた達はソウルメイトなんか目じゃない、宿命の運命を………」

 俺は思わず、
「お前酔っ払いだろう、そんなつまらん冗談はよせよ!」
 すると村上がゆっくりと首を振りながら、

「キン様。この子は代々陰陽師の家系の子なのです。今でも内閣が変わると呼び出される程の……」

「はあ? 何だって!」

「二年前だっけ? 矢部総理に呼ばれて東京オリンピックについて占ったらしいよ」

 嘘、だろ? 

 俺が呆然としていると、佐藤はバラバラになったゴキブリの死骸を眺める表情で、
「その時期にオリンピックなぞやめろ、と言ったのですが。占いでは凶と出ていたのです。そしたらクビになっちゃいました、てへぺろ」
 再来年開催予定の東京オリンピックは失敗すると? 

「鳥羽っちはめぐみんのお告げを信じてるみたいですよぉ、だからオリンピック関連の営業は特に力入れないって」
 
 そ、そ、そんなバカな!

 そう言えば再来年のオリンピック関連の企画が確かに一つもないぞ。ガッツリ儲けどきだと言うのに……

 周りが騒いでいる中、佐藤が俺の目をしっかりと見つめそっと囁く。
「いいですか金光軍司。この島田光子とようやく今世で邂逅出来たのです。その出会いに感謝し決して離してはなりませぬ。この出会いは古より定められし約定なれど、いと簡単に散ってしまう儚きもの……」

 俺は訳が分からなくなり、頭を抱え込む。すると会場内が一瞬静まり返り、俺の気が遠くなっていく……

 ハッと気付くと周りはフツーにワイワイと騒いでいる。光子は最早上半身裸族と化し泉さんは笑顔で昇天済みらしい。城島と村松が肩を組んで盃を空けており、田所達は山本くんに馬乗りになって暴れている…

 佐藤を目で追うと元々そうであったかの如く部屋の端で大鼾をかいている。

 何だったのだ今のお告げは? 俺だけが聞いていたのか… 夢、だったのか… 俺と光子はずっと遥か彼方の昔から魂の結び付きを定められた存在だと?

 俺はスピリチュアルだとか霊的な事とかあまり信じない。それよりも己を信じ仲間を信じ上司と同期と部下を蹴落として生きてきた。

 だがこの半年程の俺の身の回りの出来事、そうズバリ光子との邂逅は偶然とは到底思えなくなってきている。

 佐藤のお告げのように、俺たちの出会いが必然であるのなら、話の辻褄が全て符合するのだ。では今世で俺たちは何の為に再会したのか? それも50代を過ぎた今。俺たちが出会った意味は何なのか? これからじっくりと考えていこう。二人で…。
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