第3章 第10話

文字数 1,025文字

 今日の天気は社の連中の予想通り、快晴だ。明日、雪が降るなんて俺には信じ難いほどの好天である。ただ吐く息は白く、すっかり平成最後の冬の本番到来である。

 そういえば昨夜現地入りした彼らはそろそろ登山口に着いた頃だろうか。運転中ドライブモードにしていたスマホを解除するや否や、50件近くのラインがポップアップしてくる。

『隊長以下四名、これより宿を出発』

『隊長曰く 本日天気晴朗なれども山高し』

 何しに行くんだよ…

『決死隊の健闘を祈念す 弥栄!』

 爾霊山じゃねーし。景徳山だし。

『おーい、庄司〜 一緒に日本に帰ろー』

 段々読むのがアホくさくなってくる。まるでサークルの新歓登山じゃないか。遊びじゃないんだぞ… もっと端的に事実を報告するべきだぞ庄司。その思いをラインのグルに送る。

『庄司。現場の状況だけを正確に白瀬ること』

 やっちまった… この俺が変換ミスとは… しかも既読が秒速で付いていく…

『白瀬る… ワオ まさかのキンさん爆弾投下〜』

『キンさま〜 ここで南極探検とは… 流石です〜』

『えー? 誰々? 白瀬何した人〜?』

『庄司了解です。現場状況を正確に白瀬ますww』

『庄司よりお白瀬です。間もなく登山口です』

 スマホの電源をそっと切る。

 勝沼を過ぎると甲府盆地が一望できる。北は秩父多摩甲斐国立公園の山々、西と南は八ヶ岳、そして北岳を含む南アルプスに囲まれ、箱庭みたいに佇む街並みが清々しい。笛吹八代スマートICを出てカーナビに従いながら、真琴さんの住む善光寺へと北上する。

「真琴さんはいつから甲府に住んでいるんだい?」
「僕が小学校に上がる時なので、10年ほど前でしょうか」
「という事は、それからずっと光子と二人で?」

 走行中、遅え、たるいを連発していた光子は街並みをアホ面で眺めながら、
「はえーなー。もーそんなになるのかー。そーか、店始めた頃だったもんな、真琴が甲府に行ったのって」
「しかし… コイツに育てられて、あの名門中学に入るとは… 流石真琴さんの血が流れているっていうか… ゲッ」

 俺は思わぬ事実に目の前が真っ暗となる。危うく赤信号を突っ切ろうとしてしまい、急ブレーキで何とか停車した。
「何ですか?」
「ちょっと待て。翔と真琴さんに… 光子の血が流れている事実を俺は冷静に受け止めることが出来ねえ…」
「ははは… あ、そろそろ着きますよ」

 カーナビが目的地付近と告げる。光子が低層マンションの前に立っている女性を指差す。その女性の前に車を停める。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み