第4章 第6話
文字数 1,661文字
「その後どうだ、四人は?」
大広間は半分は布団がひかれ微動だにしないマグロ共、半分は布団があげられ探索隊の前進基地の様相。何故か営業の三人はノーパソを弄りながらしっかりと起きている。おい、企画部……
「相当すごい積雪の様です。幸いに風はそれ程吹いてない様ですが」
真剣な顔つきで山本くんが言う。つい最近出来た彼女を心配している様子がありありと伺える。
「そうか。よし、交代で朝食取ってこい。宿には話通してある」
「わかりました。皆さん、どうぞ先行ってください!」
半分が立ち上がり、食堂へ向かう。そんな中、営業部の村松課長が渋い顔をして俺に近づき、
「キンさん、ちょっと面倒なことになりそうです」
「どうした?」
「ウチの部長が昼過ぎにここに来るそうです」
皆の耳がピクリと動く。何ならマグロ共もビクリと動く。
「は? 何しに?」
「それは… 決まってるじゃないですか。この企画の粗探しをしに、ですよ」
「…ヒマな奴だ」
俺は呆れて大きく息を吐き出す。
「本当は僕らがこの前線基地の楽観ムードを部長に糾弾するはずだったんですが…」
村松が頭を掻きながら言うと佐藤、大崎の両部員も
「なんかねえ、楽しいじゃないですか。この企画。夢もあるし」
「学生時代のサークルの合宿みたいだし。それに企画部の人達、ホント愉快な人ばかりで居心地いいし」
村松は苦笑いしながら上目遣いで、
「そんな訳で僕らが良い報告をしないので、自らここに…」
大広間に溜め息があちこちから木霊する。
「俺たちの、企画部の粗を見つけて、何がしたいんだ、彼は?」
「そんなの…」
「決まってるじゃないですか…」
彼等三人は済まなさそうな表情で、
「キンさんの… 専務の失脚、ですよ…」
不覚にも、深く溜息が出てしまう。こんな小さな会社でもやはりあるのか、足の引っ張り合い。前職の銀行員時代、俺は出世競争の先頭集団に入っていた、つまり先輩、同期、後輩の足を掬っては放り投げ、足蹴にして踏み躙りながら支店長まで登りつめた。
妻、里子の死や愛人の告発で出世争いから呆気なく転がり落ちてしまい、今この会社に俺は居る。もはやその事に後悔はないが、同時にその様な争いも二度と味わいたくない。それが今の心境である。
営業部長、三ツ矢智己。早大出、三葉物産営業部に在籍していた。2016年にこの会社に転職。今から三年ほど前である。以来営業部長としてこの会社を引っ張り、この規模にしては中々の営業利益を捻り出している相当なやり手。社長以下、趣味の延長の様な感覚で勤めている他の社員とは一線を画し、この会社を一企業として他に認めさせている本物の企業人だ。
嘗ての俺なら相手にとって不足は無い、あらゆる手を使い地獄の底まで叩き落としていたであろう。しかし今は残りのサラリーマン人生を気の置けない仲間達と穏やかに過ごしていきたい。さて、どうしたものだろう…
「食事終わりました、代わりますから食堂行ってきてください」
「おお、有難う。よし、村松達も朝飯行こう」
「そうしますか。おい、行こう」
俺は営業部連中と食堂へ向かう。その途中、村松が恐る恐る俺に、
「キンさん… なんか嬉しそうな顔してますけど…」
「ホントだ〜 私が占ってみましょう〜」
あれ、無意識の内に三ツ矢との対決を待ち望んでいるのか俺?
「よ、よせ! そんなことよりさ、あの四人は上手く見つけられるかな、幻の湯」
急に表情が変わり、佐藤が『陰陽師』モードに入る…
「その話なのですが。正直、今朝までは良くない卦が出ておりました」
「おい! 何だって…?」
「恵… それ早く言えや…」
急に立ち止まり、仰々しく
「ですが。先程占いました所、思いがけない星の動きがあり、結果が好転しそうなのです」
「ゴクリ。それはどんな星の…?」
「ふふふ。それは秘密です、クックククク」
ポカンとして立ち尽くす俺たちを後にし、佐藤は悠々と食堂に入って行く。是非、企画部に欲しい人材だ。三ツ矢から強奪するのも面白い。
「あの、なんで笑ってるんです?」
「いや、すまん、気にするな。さ、俺たちも朝飯だ」
大広間は半分は布団がひかれ微動だにしないマグロ共、半分は布団があげられ探索隊の前進基地の様相。何故か営業の三人はノーパソを弄りながらしっかりと起きている。おい、企画部……
「相当すごい積雪の様です。幸いに風はそれ程吹いてない様ですが」
真剣な顔つきで山本くんが言う。つい最近出来た彼女を心配している様子がありありと伺える。
「そうか。よし、交代で朝食取ってこい。宿には話通してある」
「わかりました。皆さん、どうぞ先行ってください!」
半分が立ち上がり、食堂へ向かう。そんな中、営業部の村松課長が渋い顔をして俺に近づき、
「キンさん、ちょっと面倒なことになりそうです」
「どうした?」
「ウチの部長が昼過ぎにここに来るそうです」
皆の耳がピクリと動く。何ならマグロ共もビクリと動く。
「は? 何しに?」
「それは… 決まってるじゃないですか。この企画の粗探しをしに、ですよ」
「…ヒマな奴だ」
俺は呆れて大きく息を吐き出す。
「本当は僕らがこの前線基地の楽観ムードを部長に糾弾するはずだったんですが…」
村松が頭を掻きながら言うと佐藤、大崎の両部員も
「なんかねえ、楽しいじゃないですか。この企画。夢もあるし」
「学生時代のサークルの合宿みたいだし。それに企画部の人達、ホント愉快な人ばかりで居心地いいし」
村松は苦笑いしながら上目遣いで、
「そんな訳で僕らが良い報告をしないので、自らここに…」
大広間に溜め息があちこちから木霊する。
「俺たちの、企画部の粗を見つけて、何がしたいんだ、彼は?」
「そんなの…」
「決まってるじゃないですか…」
彼等三人は済まなさそうな表情で、
「キンさんの… 専務の失脚、ですよ…」
不覚にも、深く溜息が出てしまう。こんな小さな会社でもやはりあるのか、足の引っ張り合い。前職の銀行員時代、俺は出世競争の先頭集団に入っていた、つまり先輩、同期、後輩の足を掬っては放り投げ、足蹴にして踏み躙りながら支店長まで登りつめた。
妻、里子の死や愛人の告発で出世争いから呆気なく転がり落ちてしまい、今この会社に俺は居る。もはやその事に後悔はないが、同時にその様な争いも二度と味わいたくない。それが今の心境である。
営業部長、三ツ矢智己。早大出、三葉物産営業部に在籍していた。2016年にこの会社に転職。今から三年ほど前である。以来営業部長としてこの会社を引っ張り、この規模にしては中々の営業利益を捻り出している相当なやり手。社長以下、趣味の延長の様な感覚で勤めている他の社員とは一線を画し、この会社を一企業として他に認めさせている本物の企業人だ。
嘗ての俺なら相手にとって不足は無い、あらゆる手を使い地獄の底まで叩き落としていたであろう。しかし今は残りのサラリーマン人生を気の置けない仲間達と穏やかに過ごしていきたい。さて、どうしたものだろう…
「食事終わりました、代わりますから食堂行ってきてください」
「おお、有難う。よし、村松達も朝飯行こう」
「そうしますか。おい、行こう」
俺は営業部連中と食堂へ向かう。その途中、村松が恐る恐る俺に、
「キンさん… なんか嬉しそうな顔してますけど…」
「ホントだ〜 私が占ってみましょう〜」
あれ、無意識の内に三ツ矢との対決を待ち望んでいるのか俺?
「よ、よせ! そんなことよりさ、あの四人は上手く見つけられるかな、幻の湯」
急に表情が変わり、佐藤が『陰陽師』モードに入る…
「その話なのですが。正直、今朝までは良くない卦が出ておりました」
「おい! 何だって…?」
「恵… それ早く言えや…」
急に立ち止まり、仰々しく
「ですが。先程占いました所、思いがけない星の動きがあり、結果が好転しそうなのです」
「ゴクリ。それはどんな星の…?」
「ふふふ。それは秘密です、クックククク」
ポカンとして立ち尽くす俺たちを後にし、佐藤は悠々と食堂に入って行く。是非、企画部に欲しい人材だ。三ツ矢から強奪するのも面白い。
「あの、なんで笑ってるんです?」
「いや、すまん、気にするな。さ、俺たちも朝飯だ」